政治学レジュメ~デモクラシーと資本主義市場経済(Robert Dahl 『On Democracy』14章)

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政治学レジュメ

デモクラシーと資本主義市場経済

CHAPTER 14
Why Market-Capitalism Harms Democracyデモクラシーという観点から資本主義市場経済を分析すると、相反する二つの顔が見える。一方は、デモクラシーに友好的な顔で、他方は、デモクラシーに敵対的な顔をしている。

3.デモクラシーと資本主義市場経済とは、互いに、修正させたり制約しあったりして、絶え間なく対立している。

イギリス

労働、土地、貨幣において、市場自らが規律する市場経済は、1840年にはイギリスで完璧に導入されていた。資本主義市場経済は、経済的な理論や行為のみならず、政治、法律、理念、哲学、イデオロギーの面でも敵に勝っていた。対抗勢力は完全に没落したと思われた。しかし、それでも耐え兼ねないと声を挙げる者は、デモクラシー以前でさえ居て、こうした声は根強かった。いつであっても、資本主義市場経済によって利益を受ける者もいれば、損失を被る者もいるのである。

確かに、参政権には厳しい制限があったが、代議制の制度ではあった。そして、1867年と1884年には参政権が拡大された。さらに、1884年以降は、ほぼすべての成人男性が投票できるようになった。このように、無秩序な資本主義市場経済への反対を効率的に表明できる機会が与えられた。その結果、市場経済で損害を被った者は、政治や行政の指導者に助けを求めることで保護を受けようとした。そして、このような労働者階級に照準をあわせた労働党が新しく設立された。

このイギリスと同じようなことが他の西ヨーロッパ諸国や、他の英語圏の国々でも見られた。

不満による運動の影響を受けた政府は、それ以上自由放任主義〔レッセフェール〕経済を続けることはできなかった。

デモクラシー国家において政府の介入や規制がなければ資本主義市場経済が成り立たない理由として次のことがいえる。

① 資本主義市場経済の基本的な制度自体が、政府の広範な介入や規制を必要としていること

例:自由競争市場、経済主体の私有、契約の拘束力、独占の防止、財産権の保障
② 政府による市場への介入や規制がなければ、市場経済によって大きな損害を被る者は必ず生まれ、その者もしくはその可能性が高い者は、政府に保護を求めること

以下の問題は、単なる経済的問題でないことは明らかである。すなわち、道徳的な問題、政治的な問題である。
損害を取り除いたり、少なくしたりできないか。できるならば、大きな負担を負わずにできないか。特定の人々に利益が集中し、他の人々に損害が集中するような場合、何が妥当なことかをどう判断し、どう解決するか。最善でなくても満足できる解決のしかたはあるか。このような決定は誰がどう行うか。決定を実施するための方法、手段はどうするか。
デモクラシー国家において、市民がこれに対する解決を探そうとすれば、政治や政府に関心を向けざるを得ない。市場経済がもたらす結果を修正するために、いちばん市場に介入しやすく、効果を挙げられそうな候補は、政府なのである。

政府の介入を成功させられるかは、さまざまな要素によって大きく影響される。しかし、歴史上、デモクラシー国家では、無秩序の市場が損害を引き起こしたり、その発生が予測されるときには、市民が被害を受けないように政府が介入してきた。

アメリカ

連邦政府、州および地方政府が、数えきれないほど市場に介入している。

・失業保険
・老齢年金
・インフレや不景気の回避のための財政政策
・食品、薬品、航空、鉄道、ハイウェイ、道路の安全
・公衆衛生、感染症予防、児童への予防接種
・健康保険
・教育
・株式、社債、その他有価証券の売却
・産業地区、居住地区などの用途制限
・建築基準の設定
・市場での競争の確保、独占の防止、その他取引に関する規則
・関税や割当制の賦課または緩和
・医師、歯科医、弁護士、会計士、その他専門職の資格
・州立公園、国立公園、レクリエーション施設、自然保護地区の設置、維持
・環境保全のための工場への規制
・中毒やガン、その他の有害な影響を取り除くためのタバコ会社への規制

以上、まとめれば次のようにいえる。

デモクラシー国家では、市場経済の有害な影響に修正を加えるために、政府が広範な規制や介入を行わなければ、資本主義市場経済を存続できない。

それにもかかわらず、民主的な政治制度の存在が資本主義市場経済の作用に大きな影響を与えるとすれば、逆に、資本主義市場経済の存在も民主的政治制度の作用に多大な影響を及ぼす。たとえれば、原因を引き起こす矢は双方向に向いているということである。政治から経済へ、経済から政治へ。

4 資本主義市場経済は経済的不平等を避けられず、政治的資源の配分の不平等をもたらす。そして、デモクラシーに潜在的に秘められているポリアーキー型デモクラシーを実現する可能性が制約されてしまう。

Words About Words
Political resources 政治的資源
個人や集団が、他者の行為に対して、直接または間接に影響を及ぼそうとするときに利用できるあらゆる手段のこと。時と場所によって、さまざまなものが政治的資源となる。肉体的強さ、武器、お金、富、サービス、資源、収入、地位、名声、尊敬、親愛、カリスマ、情報、知識、教育、通信、職場での地位、法的地位、信仰に対する抑制、参政権、など多くのものが政治的資源となる。

政治的資源は不平等に分配されていて、政府の決定や行動に対して、他の者よりも大きな影響力を与えることがある。その結果、デモクラシーの道徳的基礎をなす、市民間の政治的平等を著しく害する。

5 資本主義市場経済は、デモクラシーが発展し、ポリアーキー型デモクラシーのレベルに達することに好都合である。しかし、ポリアーキー型デモクラシーを超えた発展においては、市場経済は、政治的平等を損なうために不都合なものとなる。

以下の理由により、資本主義市場経済は、権威主義を弱体化させるうえで大きな力を発揮する。

① 地主と小作人からなる社会を、雇用者と被用者からなる社会へと変える。
② 田舎に居住し、生活のために必要な教育をほとんど受けられなかった人びとに教養を持たせ、非宗教的な都市の住民へと変える。
③ エリートや政府に圧力をかけられる集団や支配者層だけが資源を独占していた状態を変える。
④ 多くの人びとが自らの政治的資源を効率的に連携させることができる制度への移行が可能になる。

しかし、資本主義市場経済によって、今度は、市場が大量に作り出す資源の配分が不平等となり、市民の間で重大な政治的不平等が生じることになってしまう。


Ch. 14
Why Market-Capitalism Harms Democracy
Return to five important conclusions:

3. Democracy and Market-capitalism are locked in a persistent conflict in which
each modifies and limits the other

a. market capitalism’s suffering and widespread suffrage led to regulation

b. basic institutions of market capitalism require extensive regulation and
intervention

without intervention and regulation, economy inflicts serious harm on
some, and they demand intervention

Note: list of interventions on pl. 176

4. Because market capitalism inevitably creates inequalities, it limits the
democratic potential of polyarchal democracy by generating inequalities in
distribution of political resources.

5. market capitalism favors democratic development up to level of polyarchal
democracy. But because of its adverse consequences for political equality
It is unfavorable to development of democracy beyond the level of polyarchy