近代市民法の修正について
近代法とは
政治的な近代市民社会を背景として、経済的基盤である近代資本主義の経済システムを維持する為、かかるシステムの中核に位置する市場メカニズムの基本的枠組みを整備・保障するという機能を担う法システム。
↓よって、
近代法では、原則としてすべての財貨の上に排他的な私的所有が認められ、すべての交換当事者の独立自由な法的主体性=法人格が認められなければならない。
私的所有、契約、法的主体性 この3つの基本的要素とする商品交換の法
商品交換が政治権力の介入なしに、市民社会内部において自律的に行われるべきものであるゆえに(私的自治の原則)、政治権力から分離された自己完結的な体系をなす(近代法における公法と私法の分化)。
参考:市民法とは以上のような、自立的な商品交換の法=私法を指す。
私法がその自律性を確保するためには、市民社会が積極的に政治権力の介入を免れようとするにとどまらず、積極的に政治権力を自己の手におさめることが必要となる。
↓
そこで、成立した民主主義のもとで、公法もまた「近代法」と呼ばれるにふさわしい性質をそなえ、政治権力による私法秩序の保障に奉仕するものとなる。
ここではじめて真の「近代法」の確立を認めらることができる。(代表的な文献として、渡辺洋三『法とはなにか・新版』でこの思想が見られる。)
近代法の限界
問題①、経済力が大企業等の特定の経済主体に集中したことにより、市場メカニズムの効率的な作動が阻害された。
問題②は、近代法が基本原理として想定した「人格の対等性」が、現実には妥当しないことが明らかになった。
問題①について
市民社会成立以来、実質的にはブルジョアジーに富を独占され、労働者や小生産者の間では富の配分への要求が生まれ、とくに労働者は19世紀後半から20世紀初頭にかけて、連帯して政治的自由を獲得するための闘争を行うようになる。
→ 市民社会の大衆化
↓これに対応して、
法的には、富の配分を修正するために市民法の基本原理(とくに「所有権の絶対」と「契約の自由」)が制限される。
→ 社会法による市民法の修正
さらに労働者や小生産者をも含めた国民の政治的権利が承認される。
→民主主義の確立(フランスの第三共和政憲法、ドイツのワイマール憲法、イギリスの1884年以降の選挙改革)
※市民法の修正と、民主主義の確立は、実はブルジョアジーの利益にも合致していた。
・民地政策が行き詰まり、国内市場の拡大が求められていた・民主主義というシンボルの操作と相まって国内の政治的安定をもたらす。
↓
市民法の修正ないし補充は、国家が積極的に国民の経済活動に介入する形で強力に推進されることになる。
問題②について
近代法システムには、諸個人を法的・政治的レベルで形式的に平等に扱えば、それで十分だという前提があった。そのため使用者に対する労働者、企業に対する消費者のように、実際には社会経済的弱者の地位に甘んじざるを得ない当事者が存在することを、そもそも予定していなかった。
↓
国家が、社会経済秩序の形成・維持に積極的に参与することが求められるようになる。
→消極国家・自由放任国家から積極国家・福祉国家への移行
つまり、
近代法が標榜した自由かつ平等な諸個人という理念は、諸々の社会経済的格差に苦悩する弱者層の存在を看過ないし無視するもの。
↓
そのため現代法は、自由かつ独立の取引主体としての抽象的な人格から、具体的なありのままの人間の姿へとその照準を移行させ、彼ら社会経済的弱者の生存あるいはその実質的な自由・平等にも、真摯な配慮を払おうとするのである。
参考文献
平野ほか『法哲学』(服部執筆部)
伊藤ほか『現代法学入門』
渡辺洋三『法とはなにか・新版』
永井和之編『法学入門』
五十嵐清編『法学入門』