学説判例研究~行政法~国家賠償制度

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国家賠償制度

前提:国家による補償の制度

・国家の違法な活動により生じた損害の賠償 → 国家賠償
・国家の適法な活動による損失を補償する → 損失補償
・行為の適法・違法を問わず、統一的な補償理論を構成する必要
・国家補償の理論:「国家の活動によって生じた損失の公平負担」

※最高裁昭和53年3月20日第1小法廷判決(民集32巻2号435頁、行政判例百選254事件)は、原爆医療法に「実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあることは、これを否定することができない」とした。

国家賠償制度の意義と歴史

国家賠償とは、国家の違法な活動によって私人が損害を被った場合に、その損害を国家が賠償すること。

わが国では、日本国憲法17条により、国又は公共団体の賠償責任が憲法上要請されることとなった。1947年には、国家賠償法が制定された。

国家賠償法の構造

1条:公権力に係る国の損害賠償責任
2条:道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理の瑕疵に基づく損害賠償

※民法やその他の法律も適用される(4条、5条)
※国家賠償法は「外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り」外国人にも適用される(6条)(なお、外国人の本国で我が国の国民の被害に対する賠償責任が認められているときに限ると解されている。)

国家賠償法1条の損害賠償責任

責任の本質

①自己責任説 :損害賠償責任は第一次的に国又は公共団体に帰属するとする説

国は公務員を使用して国家活動をして、社会的利益をあげる反面、時には特定の者に損害を与える危険を内在しているのであるから、国家活動に伴う損害について国が当然責任を負うべきであると考える。

②代位責任説(通説) :公務員個人が負っている責任を国が代位したものとする説

違法な行政活動について責任を負うべきなのは公務員であるが、国が公務員に代わって責任を負うことで、有効な被害者救済を図っているのだと考える。

現在の国家賠償法1条は公務員の故意・過失を要件としており、国の公務員への求償権を認めているので(自己責任説に立つと無過失責任に近づく)、解釈論としては代位責任説のほうが妥当であるとされる。

公権力の行使

公権力の行使についての学説

①狭義説       : 「公権力の行使」は命令・強制等に限る
②広義説(通説・判例): 純粋な私経済的作用と国家賠償法2条の対象である営造物の設置・管理の瑕疵を除く、全ての作用が「公権力の行使」に含まれる
③最広義説      :私経済的作用も「公権力の行使」に含める

※判例は、「公権力の行使」は学校の教育活動や行政指導も含むとしている(最判平成5年2月18日、百選100事件。最判昭和62年2月6日百選217事件)
※国家賠償法の対象にならなかったとしても、民法の不法行為責任の追及は可能である
※税の賦課、年金不支給のような処分についての国家賠償請求は否定的に解されている

国又は公共団体

「公権力の行使」をする限りで、その団体は国家賠償法1条の賠償責任を負う

国、地方公共団体(都道府県、市町村、特別区、地方開発事業団、組合、財産区)、公共組合、特殊法人、医師会、弁護士会、指定機関

「都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えた場合において国家賠償法1条1項によりその損害の賠償の責めに任ずるのは、原則として当該都道府県であり、国は原則としてその責めを負うものではない」(最高裁昭和54年7月10日、行政判例百選232事件)

公務員

「公務員」とは身分上の公務員ではなく、公権力の行使を委ねられた者のことを指す

例えば、弁護士会で懲戒処分を下す懲戒委員会の委員の弁護士は公務員ではないが「公務員」と扱われる(なお、国家賠償請求の被告は、国ではなく、弁護士会になる)。

職務行為関連性

公務員が、職務を行う際に相手に損害を与えたことが要件

国家賠償法1条の「職務を行うについて」の解釈に際し、最高裁は、民法715条(使用者責任)の場合と同じく外形標準説をとっている(最判昭和31年11月30日、百選230事件)

故意・過失・違法性

①過失一元的判断 :過失の要件に、違法性の要件が吸収されるとする

「注意義務違反」などからただちに損害賠償責任を認める判例。なお過失は客観的なものと考えられている。学校事故などで用いられている(最判昭和58年2月18日、、百選217事件)

②違法一元的判断:違法性の要件に、過失の要件が吸収されるとする

「違法」であることからただちに損害賠償責任を認める判例

③二元的判断   :違法性と故意・過失を別個に判断する

「違法」と公務員の「過失」を認定して損害賠償責任を認める判例

行為不法と結果不法

国家賠償法1条の違法性についての学説・判例

①結果不法説 :被侵害法益の観点から違法性を認定する。

被害結果に注目している。被害者救済の立場を強調すると損失補償との違いも相対化され、国家賠償と損失補償を国家補償として統一的に把握する立場に至る

②行為不法説 :侵害行為の適法性・違法性に注目する

行為不法説にも職務行為基準説と公権力発動要件欠如説の二種がある

③相関関係説 :行為不法説と結果不法説の折衷的立場。侵害行為の態様と被侵害利益の双方を違法性判断において勘案する

職務行為基準説

行政処分に起因する国家賠償請求について、裁判所は、いわゆる職務行為基準説に基づく違法一元的判断を行うことがある

職務行為基準説は、「公務員が職務上尽くすべき注意義務を懈怠したことをもって違法」とする立場

参考判例 最判昭和53年10月20日決(百選229事件)

Xは窃盗罪等などで告訴されたが無罪判決を得た。そこでY(国)に対して、捜査や公訴の提起について故意・重過失があったとして損害賠償を求めた。

「刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。けだし、逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり、かつ、必要性が認められるかぎりは適法であり、…起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は、…起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるからである。」

参考判例 最判昭和61年2月27日(百選218事件)

巡査Aら乗るパトカーは、Bの運転する速度違反者を発見し追跡を開始した。しかし信号無視をしながら時速100kmで追跡したところ、Bは交差点でCの乗る車両に衝突し(Cは死亡)、さらにCの車両がXの車両に追突したためXは重傷を負った。XはY県に損害賠償を求めた。

警察官は被疑者を追跡することは出来るが、「警察官がかかる目的のために交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被つた場合において、右追跡行為が違法であるというためには、右追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要するものと解すべきである。」

職務行為基準説は、国家賠償法と取消訴訟とで「違法性」の内容が異なるという「違法性相対説」に立つものだとされる

学説は、国家賠償法で、取消訴訟で言う意味での違法性の判断がされなくなるおそれがあることから職務行為基準説を批判する

公権力発動要件欠如説

一部の学説は、行政行為に対する国家賠償請求での違法性は取消訴訟と同じだと解するべきと主張している(公権力発動要件欠如説)、この説に立つと、公務員の故意・過失を判断するために違法性と故意・過失の二元的判断を行うべきだとされる。

公務員の個人責任

「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。 」(国家賠償法1条2項)

国家賠償法1条は公務員の国民への不法行為への代位責任を規定したものである(通説)。

では、公務員の不法行為が成立する余地があるか。

最高裁は、国家賠償法1条の国家賠償請求について「国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない」ないとしている(最判昭和30年4月19日、百選234事件)。

一部の学説からは、例えば公務員に故意・重過失ある場合について、公務員個人責任を肯定することが主張されている。