政治学レジュメ~組織間関係論

政治学レジュメ~組織間関係論

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政治学レジュメ

組織間関係論

1.ティボーの「足による投票」

財政理論における、「公共財の支出水準を決定する市場による解は存在しない」(=政府による国民所得配分の最適方法が存在しない)という問題に対するティボーの主張 → 連邦政府の支出については妥当するが、地方政府の支出についてはあてはまらない

↑住民が政府にその真の選好を伝えるメカニズムが存在するのかということ

「もしすべての消費者―投票者がともかく公共財に対する彼らの真の選好を開示するように強制されたならば、そのとき、生産されるべき財の量と適切な便益課税のレベルは決定しうる」という。そのような強制メカニズムは現実には存在しないが、地方レベルにはそれに代わる解決方法があるとティボーは考える。

都市部から郊外に移ることを希望している人について

「消費者―投票者は彼の選好をもっと満足させてくれる自治体に移る。自治体の数が多くなるほど、そして自治体間での違いが大きいほど、消費者は彼の選好をより完全に実現することに近づく」

モデル設定

  • 消費者―投票者は完全に移動が可能で、すでに設定されている選好パターンをもっともよく満たしているコミュニティに移動する。
  • 消費者―投票者は政府歳入・歳出パターンの違いについて完全な知識を有しており、その違いに反応する。
  • 消費者―投票者が居住を選択する多数の自治体が存在する。
  • 雇用機会による制約は考慮に入れない。
  • 供給される公共サービスはいかなる外部経済もあるいはコミュニティ間の不経済も示さない。
  • コミュニティ・サービスについては、最適なコミュニティ規模が存在する。
  • 最適規模のコミュニティはその人口規模を恒常的に維持しようと努める。

例えば、美しい海浜を有する自治体があるとする。その海浜を最大限に利用でき、しかも当該自治体をもっともよく維持できる人口規模は13000人であるとする。このとき、自治体は最適な人口規模である13000人を保つために租税や手数料によって人口を増減させるとう努める。

そしてティボーはこのモデルに、さらにコストを導入する必要を示す。

公共サービスのコストの変化は当該サービスの変化をもたらすのであり、コミュニティ間の移動にもコストがかかるということである。

全国の水難救助員が組織化し、賃金アップの要求が果たされたとき、各自治体は費用を税金で賄おうとする。海浜を有する自治体は増税を迫られることになり、海浜に興味を待たない住民は、増税を嫌って海浜のない自治体に移住することを考える。このとき、考慮するのが移動のコストであり、適当な移動先コミュニティの発見である。

⇒増税というコストが高くなればなるほど、移住は活発化し、水難救助員数は減少していく。

住民がよりよいサービスを求めて自治体間で選択する、あるいはよりよいサービスを提供する自治体に移動する。その移動の量がいわば選挙における投票数の減少のような効果をもち、自治体の側でのサービス供給への反省とか競争意識をもたらす。

このような議論はそれまで政府と人民の関係を特定の領域内に固定してきた考え方からは、新鮮であり、示唆に富むものとされてきた。

政府の提供するサービスには市場原理が働かないとしがちであったが、実際には自治体相互に競争しているところは少なくない。自治体幹部としては、近隣自治体や同規模自治体の動向には気を使っており、負けたくないという意識が働く。サービスや施設についても、近隣よりはできるだけよいものを供給したいという意識はみられる。規制緩和が主張され、横並び意識や画一的行政への批判がみられるなかで、競争の意義は認識されつつあるといえよう。

2.ティボー・モデルのインプリケーション

ティボー・モデルのインパクトを受けてどのように研究が展開されてきたのか。

長峯純一によれば、

「ティボー・モデルから得られるインプリケーションの妥当性を調べることで、間接的にティボー・モデルを検証しよう」とする研究がほとんどである。そして、ダウディング、ジョン、ビッグスによれば、ティボー・モデルからは次のような実証研究のためのインプリケーションが提出される。

  • 各地方政府が提示する公共財/租税のパッケージの違いは、住民移動に影響を与える。
  • 固定資産価値と公共財の量および質との間にはプラスの相関が、租税水準との間にはマイナスの相関が存在する。
  • 同一都市圏に存在する地域の数が多いほど、各地域はより同質的な住民で構成される。
  • 同一都市圏に存在する地域の数が多いほど、地域間競争は激しい。
  • 同一都市圏に存在する地域の数が多いほど、住民の満足度は高い。
  • 地域合併が行われるところでは、公共財の供給費用は低下する。

これらの仮説を含めて、次の6つのグループの実証的研究が展開されてきている。

  • 財政的資本還元

「住民が各地域の課税水準や政府支出(公共財・サービス)のなかみを評価してより魅力ある地域へと移住していくとすれば、それら財政変数の違いが各地域の固定資産価値に反映されていくという仮定である」

政府の施策やサービスおよび租税負担と固定資産価値の間に相関があるかどうかを見出そうとするアプローチで、ティボー仮説に基づく実証的研究の中心に位置する。固定資産評価は土地売買実例などに基づいており、いわば市場評価が反映されている。つまり、政府の評価を土地の評価変動で調べようとするものである。

日本の場合、単純に政府評価と結びつけにくい側面もあることに留意する必要がある。

不動産評価は、自治省(→総務省)の評価基準や自治体の評価要領にしたがってなされるが、必ずしも実態に即しているとはいえず、固定資産評価が実情を反映しているとはいえない面も見られる。たとえば、道路に面していれば高い評価になり、二つの道路に面していればさらに高い評価になるが、このことは必ずしも快適な居住性に合致しないこともある。

  • 財政変数の移住への効果

政府施策や租税負担が人々の移住にどのように影響しているのかをみようとするもの。

(1)が政府施策や租税負担が固定資産価値にどのような影響を与えるのかを検討するものだったのに対して、(2)はより直接的な効果をみようとするもの。

ティボーの例でいえば、就学児童を持つ家庭が居住先を決めようとする場合、学校施設や教育環境に優れた自治体を選択することである。

日本でも「よい学校」「よい学区」を目指して移住することは珍しくはない。また現代では「福祉移住」が始まっているとの指摘もある(例えば特養ホームに入るための移住)。

  • 住民のすみわけと地域社会の同質性

ティボー・モデルは政府施策や租税負担に対する人々の選好が基礎になっているので、それぞれの地域社会が居住選択の対象になっているならば、結果として同質性がみられるはずであり、どのような同質性が形成されているのかをさぐるアプローチ。

実証は容易ではない。

住民移動が活発である場合、このアプローチの適用も可能になるが、それほど活発でない場合、実証はむずかしい。また、とあるサービスにひかれて移住してきたのか、他の要因による移住なのかを立証することは簡単でない。

  • 移住の動機

住民に直接にアンケート調査をするなどして、移住の動機を尋ねることである。

やり方によっては相当明確な選択理由がわかるかもしれない。

実際に移住した住民に尋ねるのがもっともよいと思われるが、どのようにしてそのような住民をとらえるのかが難しい。ニュータウンの新住民を対象とすることが考えられるが、回答が一律になる可能性がある。一般市民に仮定的に回答してもらう場合、選択肢の作成に注意を払う必要があろう。その場合でも、家族構成や家族の状況により、かなり特定されることも考えられる。

  • 住民の満足度

モデルのインプリケーションとして、自治体の規模が小さいほど住民の満足度も高いという仮説が出てくる。「そこで、やはりミクロデータを用いて、住民の満足度を地域社会の規模と関連させる」実証分析が求められるという。

この仮説の実証は日本では必ずしも容易ではない。最近ではむしろ規模のメリットが主張されている。なによりも規模の問題は自治体では財政規模に直結しており、むしろ施策やサービスの貧困と関連しやすい。

  • 地域間競争・地域分割の効果

ティボー・モデルは住民が自治体間で選択する、その結果、自治体間で競争が行われ効率化が進行する。「そこで、地域が分割されて、その結果、どの程度地域間競争が作用しているか、あるいは財政面でどの程度分権化が進んでいるかということが、独占的裁量権をもつ地方政府の行動に一定の制約を課すという仮説がある」。つまり、自治体間紛争や分権化と自治体活動の関係の実証分析である。

長峯が特に指摘する地域分割効果

「地域政府の間において個々の地方政府がより小さな単位に分割されているほど、地方政府間の競争関係は高まり、各地方政府が持つ裁量や権限は抑制されるのではないか。その結果、地方政府は生産効率的な主体となり、地方政府全体を総じた規模は抑制されることになるのではないか」。

3.コミュニティ政府間関係論へ

日本における地方分権化

地方分権一括法が2000年4月に施行された。

しかし、税財源配分に手を付けていないとの批判がある。

さらに、政府とはなにをする存在なのかの原則があいまいなままであり、中央政府と地方政府の間の関係、地方政府間の関係、とくに都道府県と市町村との関係がまだ不明確である。自治体の役割の機能強化について具体的方策は十分に示されていない。

アメリカの制度

ティボー・モデルもアメリカの制度の下で提起されたものであり、日本の現実にそぐわないところも少なくない。しかし、分権化改革のなかで日本の地方自治体が従来の機能不全や中央政府依存体質を脱却していくためには、アメリカの制度は一つのモデルとなろう。

アメリカの広域行政をティボー・モデルの観点から検討した村上芳夫の議論

アメリカの地方政府

通例、州の次に郡、そして市や町村があげられる。

また、それら以外にも「政府」的団体があり、しかも急激に増加している。

→大別して学校区と特別区・公社があり、とりわけ特別区・公社の増加が著しい。

特別区・公社は「公園、下水道、上水道、駐車場、空港、プランニング、その他の特定サービスを提供し管理する役割を担う地方政府である」が、その態様は複数の郡とか大都市圏全体にわたるものから、一つの郡内にとどまるものまでさまざまである。特別区・公社設立背景には、「重複し、隣接する一般目的政府能力を制限したり、変更したりすることなく、市民ニーズを満たすサービスを提供し、交通体系、大気汚染規制、河川管理のような機能を大都市圏全体を基礎に効率的に遂行される期待があった」とされる。

特別区・公社に類似するものとして、日本には、複数の自治体が共同して特定の事務を管理・運営する事務組合がある。しかし、アメリカの特別区とは異なる。アメリカの特別区の場合、独立性が強く、いったん設立されるや地方政府の統制から離れるが、日本の場合、独立的ではなく、設置者である自治体からの統制を受ける。

村上によれば、「特別区・公社の増殖は、伝統的改革論の批判(調整の困難性、サービスの不平等、私的利益による公的機関の乗っ取り、公的責任の減退、境界の重複、一般目的政府の能力低下)がほぼ妥当する。すなわち、市民統制や密着した政治責任からの隔離は、専門職の行政官が特定機能について大きな権限を行使することにつながる」と批判されているのである。

↑このような伝統的改革論に立った批判は、公平性、責任性などから、これらの特別区の増加には批判的であり、統合化が主張される。これに対して、公共選択論の立場からは、このような「政府」の増加はむしろ擁護され、そのメリットが主張される。その出発点がティボーである。

公共選択論の立場では、都市圏に多数の特別区のような「政府」が存在することは、「単一・地域独占的な公共経済よりも能率的・応答的な結果を生み、権力が個人の自由や自己充足という民主主義の目標を達成するならば、小さな、制限された、分割された政府に分散されるべきである」と主張される。すなわち、ある地域を独占的に支配する政府が包括的に施策を決定し、サービスを供給するよりも、機能とかサービスごとに独立的な政府を設立する方が責任が明確になり、そして効率的になるという主張である。

→同じ都市圏内に多くのそれぞれのサービスとか機能を担う政府があるならば、人々は自らの選好にしたがって、適当なコミュニティを探し、移動する。それはコミュニティ間の競争を促進し、効率性を高める。

日本では分権化が主張され、中央政府から地方政府への権限や税財源の移譲が大きな争点になっており、今回の地方分権一括法でも税財源移譲問題が解決されていないとする批判が強い。

確かに、中央政府統制からの離脱、地方政府の自立増大ということからは、重要な争点で、今後も要求し続けるべきである。しかし、ティボー的視点(住民の政府間選択と政府間競争という視点)にたつならば、中央政府から権限や税財源の移譲を勝ち取り、その地域に巨大な政府が出現することがはたして自治の実現になるのか。地方政府の強化にはなるが、住民自治とか住民統制の拡大には必ずしも直結するものではない。むしろ、同時的に地方政府の機能分化も検討すべきであろう。

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