行政法~判例~小田急訴訟と環状6号線訴訟

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小田急訴訟と環状6号線訴訟

環状6号線訴訟

最一小判平11.11.25判タ1018号177頁

事案の概要

東京都が環状六号線整備計画に基づき都市計画決定した東京都市計画道路事業幹線街路環状第六号緑地について建設大臣が平成3年3月8日付けで行った認可及び告示処分、東京都知事が都市計画決定した中央環状新宿線建設計画によって実施する東京都市計画道路事業都市高速道路中央環状新宿線の施行者である首都高速道路公団に対して建設大臣が行った承認処分とその告示の各取消を求めた。

判旨

「事業地の周辺地域に居住し又は通勤、通学するにとどまる者については、認可等によりその権利若しくは法律上保護された利益が侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあると解すべき根拠はない。すなわち、法の目的を定める法一条、都市計画の基本理念を定める法二条、都市計画の基準を定める法一三条、認可等の基準を定める法六一条等の規定をみても、法は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保するなどの公益的見地から、都市計画施設の整備に関する事業の認可等を規制することとしていると解されるのであって、これらの規定を通して事業地周辺に居住する住民等個々人の個別的利益を保護しようとする趣旨を含むものと解することはできない。法一三条一項柱書き後段が当該都市について公害防止計画が定められているときは都市計画は当該公害防止計画に適合したものでなければならないとしているのも、都市計画が健康で文化的な都市生活を確保することを基本理念とすべきであること等にかんがみ、都市計画がその妨げとならないようにするための規定であって、やはり専ら公益的観点から設けられたものと解すべきである。また、法は、公聴会を開催するなどして住民の意見を都市計画の案の作成に反映させることとし(法一六条一項)、都市計画の案について住民に意見書提出の機会を与えることとしている(法一七条二項)が、これらの規定も、都市計画に住民の意見を広く反映させて、その実効性を高めるという公益目的の規定と解されるのであって、これをもって住民の個別的利益を保護する趣旨を含む規定ということはできない。そうすると、本件各処分に係る事業地の周辺地域に居住し又は通勤、通学しているが事業地内の不動産につき権利を有しない上告人らは、本件各処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。」

小田急訴訟

事案の概要

(1)鉄道事業
平成6年5月19日、建設大臣は都市計画法(平成11年改正前のもの)59条2項に基づき、小田急小田原線の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間(東京都世田谷区内)を高架式により連続立体交差化を内容とする都市計画事業の認可(以下「本件鉄道事業認可」)をした。
本件鉄道事業認可は、東京都知事(被上告参加人)が平成5年2月1付けで変更を告示した東京都市計画高速鉄道第9号線にかかる都市計画を基礎とするものである。鉄道の構造は、この変更で高架式とされた。

(2)付属街路
平成6年5月19日、建設大臣は、世田谷区が平成5年2月1日付けで告示した東京都市計画道路・区画街路都市高速鉄道第9号線付属街路第3、第4、第5、第6、第9及び第10号線に係る各都市計画を基礎として、都市計画法59条2項に基づき、東京都に対して、付属街路の設置を内容とする各都市計画事業の認可(以下「本件各付属街路事業認可」)をした。

(3)東京都環境影響評価条例(平成10年改正前のもの)
東京都環境影響評価条例は、鉄道の新設又は改良等の事業でその実施が環境に著しい影響を及ぼす恐れのあるものとして東京都規則で定める要件に該当するものを「対象事業」としたうえで(2条3号)、東京都知事において、「事業者が対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域」として、当該対象事業に係る関係地域を定めなければならないとしている(2条5号、13条1項)。

(4)出訴
沿線住民である原告(上告人)らが、本件鉄道事業認可・本件各付属街路事業認可は環境面、事業面において優れた地下式を採用せず、原告らに多大な被害を与える高架式を採用したことなどから違法であると主張し、建設大臣の事務承継者である関東地方整備局長(被上告人)を被告として取消しを求めた。

<原告(上告人)>
●上告人目録1
本件鉄道事業に係る関係地域内に居住
●上告人目録2
本件鉄道事業に係る関係地域内に居住
付属街路第9号事業の事業地内の不動産につき権利を有する
(土地を所有する者と建物の共有持分権を有する者)
●上告人目録3
本件鉄道事業に係る関係地域内に居住
付属街路第10号事業の事業地内の不動産につき権利を有する
(土地を所有する者2名)
●上告人目録4
本件鉄道事業に係る関係地域外に居住

下級審での判断

【第一審】 東京地判平13・10・3
1審判決は、環状6号線訴訟最高裁判決を引用して、本件各認可に係る事業の事業地内の不動産につき権利を有しない者の訴えを却下した。
他方、本件各付属街路事業の事業地内の不動産につき権利を有する者には、本件鉄道事業認可を含む本件各認可について原告適格が認められた。本件鉄道事業に係る都市計画と本件各付属街路事業に係る都市計画とは、実質的に一体のものと評価すべきであり、本件各認可に係る事業の対象土地全体を一個の事業地であるとされ、本件鉄道事業認可を含む本件各認可全部の取消しを求める原告適格が認められたのである。

【原審】  東京高判平15・12・18
原判決も環状6号線訴訟最高裁判決を引用して、都市計画事業の事業地の周辺地域に居住するにとどまる者につき当該事業の認可の取消しを求める原告適格を否定した。
また、特定の付属街路事業の事業地内の不動産につき権利を有する者に認められる原告適格は、当該事業の認可の取消しを求める限度でのみ認められるとして、本件各付属街路事業の事業地内の不動産につき権利を有する者に当該付属街路事業の認可の取消しを求める原告適格のみを肯定した。

<上告受理申立て理由>
原告(上告人)らが本件各認可全部の取消しを求める原告適格を有していることについて、本件各認可に係る事業が沿線の環境に与える影響を考慮すれば、事業地の周辺住民には本件各認可の取消しを求める原告適格が認められるベきであり、これに反する環状6号訴訟最高裁判決は変更されるべきだとする内容であった。

大法廷判決 最大判平成17・12・7

論点回付により、大法廷が原告適格について判断した。

【判旨】
<行訴法9条の解釈>
「行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。」

<法律上の利益の判断>
「ア 都市計画法は,同法の定めるところにより同法59の規定による認可等を受けて行われる都市計画施設の整備に関する事業等を都市計画事業と規定し(4条15項),その事業の内容が都市計画に適合することを認可の基準の一つとしている(61条1号)。 都市計画に関する都市計画法の規定をみると,同法は,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とし(1条),都市計画の基本理念の一つとして,健康で文化的な都市生活を確保すべきことを定めており(2条),都市計画の基準に関して,当該都市について公害防止計画が定められているときは都市計画がこれに適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き),都市施設は良好な都市環境を保持するように定めることとしている(同項5号)。また,同法は,都市計画の案を作成しようとする場合において必要があると認められるときは,公聴会の開催等,住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとし(16条1項),都市計画を決定しようとする旨の公告があったときは,関係市町村の住民及び利害関係人は,縦覧に供された都市計画の案について意見書を提出することができるものとしている(17条1項,2項)。
イ また,上記の公害防止計画の根拠となる法令である公害対策基本法は,国民の健康を保護するとともに,生活環境を保全することを目的とし(1条),事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動等によって人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることを公害と定義した上で(2条),国及び地方公共団体が公害の防止に関する施策を策定し,実施する責務を有するとし(4条,5条),内閣総理大臣が,現に公害が著しく,かつ,公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難であると認められる地域等について,公害防止計画の基本方針を示して関係都道府県知事にその策定を指示し,これを受けた関係都道府県知事が公害防止計画を作成して内閣総理大臣の承認を受けるものとしている(19条)(なお,同法は,環境基本法の施行に伴い平成5年11月19日に廃止されたが,新たに制定された環境基本法は,内閣総理大臣が上記と同様の地域について関係都道府県知事に公害防止計画の策定を指示し,これを受けた関係都道府県知事が公害防止計画を作成して内閣総理大臣の承認を受けなければならないとしている(17条)。さらに,同条の規定は,平成11年法律第87号及び第160号により改正され,現在は,環境大臣が同様の指示を行い,これを受けた関係都道府県知事が公害防止計画を作成し,環境大臣に協議し,その同意を得なければならないとしている。)。
公害防止計画に関するこれらの規定は,相当範囲にわたる騒音,振動等により健康又は生活環境に係る著しい被害が発生するおそれのある地域について,その発生を防止するために総合的な施策を講ずることを趣旨及び目的とするものと解される。そして,都市計画法13条1項柱書きが,都市計画は公害防止計画に適合しなければならない旨を規定していることからすれば,都市計画の決定又は変更に当たっては,上記のような公害防止計画に関する公害対策基本法の規定の趣旨及び目的を踏まえて行われることが求められるものというべきである。
さらに,東京都においては,環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業の実施が環境に及ぼす影響について事前に調査,予測及び評価を行い,これらの結果について公表すること等の手続に関し必要な事項を定めることにより,事業の実施に際し公害の防止等に適正な配慮がされることを期し,都民の健康で快適な生活の確保に資することを目的として,本件条例が制定されている。本件条例は,被上告参加人が,良好な環境を保全し,都民の健康で快適な生活を確保するため,本件条例に定める手続が適正かつ円滑に行われるよう努めなければならない基本的責務を負うものとした上で(3条),事業者から提出された環境影響評価書及びその概要の写しを対象事業に係る許認可権者(都市計画の決定又は変更の権限を有する者を含む。2条8号)に送付して(24条2項),許認可等を行う際に評価書の内容に十分配慮するよう要請しなければならないとし(25条),対象事業が都市計画法の規定により都市計画に定められる場合においては,本件条例による手続を都市計画の決定の手続に合わせて行うよう努めるものとしている(45条)。これらの規定は,都市計画の決定又は変更に際し,環境影響評価等の手続を通じて公害の防止等に適正な配慮が図られるようにすることも,その趣旨及び目的とするものということができる。
ウ そして,都市計画事業の認可は,都市計画に事業の内容が適合することを基準としてされるものであるところ,前記アのような都市計画に関する都市計画法の規定に加えて,前記イの公害対策基本法等の規定の趣旨及び目的をも参酌し,併せて,都市計画法66条が,認可の告示があったときは,施行者が,事業の概要について事業地及びその付近地の住民に説明し,意見を聴取する等の措置を講ずることにより,事業の施行についてこれらの者の協力が得られるように努めなければならないと規定していることも考慮すれば,都市計画事業の認可に関する同法の規定は,事業に伴う騒音,振動等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって健康で文化的な都市生活を確保し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものと解される。
エ 都市計画法又はその関係法令に違反した違法な都市計画の決定又は変更を基礎として都市計画事業の認可がされた場合に,そのような事業に起因する騒音,振動等による被害を直接的に受けるのは,事業地の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られ,その被害の程度は,居住地が事業地に接近するにつれて増大するものと考えられる。また,このような事業に係る事業地の周辺地域に居住する住民が,当該地域に居住し続けることにより上記の被害を反復,継続して受けた場合,その被害は,これらの住民の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないものである。そして,都市計画事業の認可に関する同法の規定は,その趣旨及び目的にかんがみれば,事業地の周辺地域に居住する住民に対し,違法な事業に起因する騒音,振動等によってこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ,前記のような被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない。
オ 以上のような都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定の趣旨及び目的,これらの規定が都市計画事業の認可の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定を通じて,都市の健全な発展と秩序ある整備を図るなどの公益的見地から都市計画施設の整備に関する事業を規制するとともに,騒音,振動等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものといわなければならない。 最高裁平成8年(行ツ)第76号同11年11月25日第一小法廷判決・裁判集民事195号387頁は,以上と抵触する限度において,これを変更すべきである。」

<鉄道事業認可の取消しを求める原告適格>
「以上の見解に立って,本件鉄道事業認可の取消しを求める原告適格についてみると,前記事実関係等によれば,別紙上告人目録1ないし3記載の上告人らは,いずれも本件鉄道事業に係る関係地域内である上記各目録記載の各住所地に居住しているというのである。そして,これらの住所地と本件鉄道事業の事業地との距離関係などに加えて,本件条例2条5号の規定する関係地域が,対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域として被上告参加人が定めるものであることを考慮すれば,上記の上告人らについては,本件鉄道事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められるから,本件鉄道事業認可の取消しを求める原告適格を有するものと解するのが相当である。
これに対し,別紙上告人目録4記載の上告人らは,本件鉄道事業に係る関係地域外に居住するものであり,前記事実関係等によっても,本件鉄道事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあるとはいえず,他に,上記の上告人らが原告適格を有すると解すべき根拠は記録上も見当たらないから,本件鉄道事業認可の取消しを求める原告適格を有すると解することはできない。 」

⇒関係地域内に居住する者には原告適格が認められるが、関係地域外の者には認められない。

<各付属街路事業認可の取消しを求める原告適格>
「次に,別紙上告人目録2記載の上告人らが別紙事業認可目録6記載の認可の,別紙上告人目録3記載の上告人らが別紙事業認可目録7記載の認可の,各取消しを求める原告適格を有するほかに,上記(2)の見解に立って,上告人らが本件各付属街路事業の実施により健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるとして,当該事業認可の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
前記事実関係等によれば,本件各付属街路事業に係る付属街路は,本件鉄道事業による沿線の日照への影響を軽減することのほか,沿線地域内の交通の処理や災害時の緊急車両の通行に供すること,地域の街づくりのために役立てること等をも目的として設置されるものであるというのであり,本件各付属街路事業は,本件鉄道事業と密接な関連を有するものの,これとは別個のそれぞれ独立した都市計画事業であることは明らかであるから,上告人らの本件各付属街路事業認可の取消しを求める上記の原告適格についても,個々の事業の認可ごとにその有無を検討すべきである。
上告人らは,別紙上告人目録2及び3記載の各上告人らがそれぞれ別紙事業認可目録6及び7記載の各認可に係る事業の事業地内の不動産につき権利を有する旨をいうほかには,本件各付属街路事業に係る個々の事業の認可によって,自己のどのような権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれがあるかについて,具体的な主張をしていない。そして,本件各付属街路事業に係る付属街路が,小田急小田原線の連続立体交差化に当たり,環境に配慮して日照への影響を軽減することを主たる目的として設置されるものであることに加え,これらの付属街路の規模等に照らせば,本件各付属街路事業の事業地内の不動産につき権利を有しない上告人らについて,本件各付属街路事業が実施されることにより健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあると認めることはできない。
したがって,上告人らは,別紙上告人目録2記載の上告人らが別紙事業認可目録6記載の認可の,別紙上告人目録3記載の上告人らが別紙事業認可目録7記載の認可の,各取消しを求める原告適格を有するほかに,本件各付属街路事業認可の取消しを求める原告適格を有すると解することはできない。」

⇒事業地内の不動産に権利を有さない者の原告適格は認められない。

<付属街路事業認可に対する原告適格について>
反対意見
「建設大臣は,本件鉄道事業認可と本件各付属街路事業認可の両者を通じて,周辺住民の健康又は生活環境に係る著しい被害を発生させてはならないという都市計画法の適法要件を充たそうとしているのであり,本件鉄道事業は,その施行者である東京都が本件各付属街路事業を同時に施行することを当然の前提としているのである。本件各付属街路事業も,用地費をはじめとして相当額の事業費を必要とするものであり,……本件各付属街路事業に係る支出は,本件鉄道事業及び本件各付属街路事業の合計支出の約20%を占めており,しかも,……連続立体交差化事業における側道に対する国庫支出金(補助金)が計上されている。したがって,本件鉄道事業認可に係る裁量権行使の適否の判断も,本件各付属街路事業の環境保全措置としての相当性やこれに要する事業費を抜きにしてはなし得ず,この面でも両者は密接に結び付いているところ,上告人らは,資金計画をも含めた本件鉄道事業及び本件各付属街路事業の事業計画全体を見直して,上告人らに被害を生じさせないよう求めているのである。
上告人らに対し,本件鉄道事業認可の取消しを求める原告適格のみを認め,本件各付属街路事業認可については原告適格を認めないとすると,仮に上告人らが前者の取消請求訴訟に勝訴しても,取消判決の行政庁に対する拘束力は本件各付属街路事業認可には及ばないから,連続立体交差化事業の計画内容全体の見直しを得ることができないのである。上告人らが,上記事業計画全体を見直して,上告人らに被害を生じさせないよう求めている以上,本件各付属街路事業認可についても,その取消しを求める利益を認めるべきである。本件鉄道事業認可と本件各付属街路事業認可とは,形式的に見れば別個独立の行政処分ではあるが,その実体的な一体性から,上告人らが両認可の取消しを求めている本件においては,これを許さないとする理由はないといわなければならない。」

補足意見・藤田裁判官
「行政上のあるプロジェクトないしスキームが複数の異なった法行為によって構築されている場合,これらの個々の行為が全体としてのプロジェクトとの関係において果たしている機能と切り離して個別的にのみこれを考察し,行政救済法上においても専らそのような取扱いしかしない,という法解釈が,常に妥当であるかどうかについては,確かに問題が無いわけではない。しかし,一般的に言えば,法的にそのような分節がなされているのは,まさに,立法者がそれを選択した結果に他ならないのであるから,仮に例外的な解釈を許すとしても,それは,国民の権利救済の必要上やむをえないことについて,真に合理的な理由がある場合に限られるものというべきであろう。ところが,本件の場合,先に見た紛争の実態に照らしても明らかであるように,上告人らにおいて,本件各付属街路事業認可の取消訴訟は,実質的に,鉄道事業認可取消訴訟に加えて,上告人らの主張する権利利益を守るための固有の意味を持つものではなく,そこで主張されていることは,鉄道事業認可取消訴訟内において,充分主張することが可能な内容なのである」。

補足意見・今井裁判官
「両者を一体として取り扱うことは次のような不都合な結果をもたらすことになる。すなわち,原告適格の面において両者を一体として取り扱うとすれば,その当然の帰結として,違法性の判断においても両者を一体として取り扱わなければならないこととなる。そうすると,両事業のいずれかに瑕疵があるときは,全体について瑕疵を帯び,全体が違法となるという結果となるものといわざるを得ないが,この結果は到底容認することができない。……原告適格の面で鉄道事業及び各付属街路事業を一体として取り扱うとすることは,法的には,これらの事業すべてが一体のものとして取り扱われるということであり,その結果,その違法性の判断においても一体として取り扱われなければならないこととなる。したがって,仮に係争の6個の付属街路事業認可の一つにつき何らかの違法があるとした場合に,当該事業認可を取り消すべきことは当然であるが,そのことの故に,実体的に一つの行政処分であるとされる本件鉄道事業認可及び他の付属街路事業認可もすべて違法となり,そのすべてを取り消さざるを得なくなる。この結論は,いかにも不当である。このような結果を招いてまで,両者を一体のものとする必要性はないと考える。
これに対しては,原告適格の判断と違法性の判断(取消事由の有無)とは別個に考えてはどうかという見解,すなわち原告適格について一体的に判断するとしつつ,違法性の判断については一体でなくてもよいとする見解もあり得ないではない。これは,本件各認可が実体的には一体ではないことを認めつつ,原告適格の判断においてのみ一体として取り扱おうとするものである。しかし,原告適格は,行政処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に認められるのであるから,両者を切り離して考えることは相当でないというべきである。」