憲法判例~郵便法違憲判決

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憲法判例レジュメ 郵便法違憲判決

前提知識:憲法17条の性質

憲法17条「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」

法的性質

①プログラム規定説(法的には非難されない、倫理的・道義的非難のみ受ける)

②抽象的権利説(通説)(17条は国家賠償の要件を一義的に詳細に定めているわけではないから具体的法律が必要とされるのは確かだが、法規範性を否定することはできない。)

国または公共団体に対し損害賠償を求める権利。抽象的権利であると解すれば、もし具体化する法律がなければ憲法に違反するという非難を受けることになる。

郵便法違憲訴訟

事案の概要

原告が、勝訴判決に基づき債権差押命令を申し立て、これに基づいて裁判所が第三債務者たる銀行に命令正本を特別送達したところ、郵便局員が命令正本を当該銀行の私書箱に投函したため送達が一日遅延し、差押えを察知した債務者が差押え債権を回収したので、債権者たる原告が差押債権の券面額相当の損害を被ったとして、送達事務を行う国に対して国家賠償を請求した事例。

特別送達とは、民訴法に定める訴訟法上の送達の実施方法であり、書類を送達し、その送達の事実を証明する、郵便の特殊取扱のひとつ)

郵便法についての争い

郵便物の区分を郵便法16条・57条。制限の態様を郵便法68条・73条で定めた。この郵便法68条及び73条は、書留とした郵便物の全部または一部を亡失し、又は毀損したとき、引換金を取り立てないで代金引換とした郵便物を交付したとき、小包郵便物の全部又は一部を亡失し、又は毀損したときに限って賠償するとして、賠償すべき場合を限定。さらに、賠償額も一定の範囲内に限定し、損害賠償の請求権者も、当該郵便物の差出人又はその承諾を得た受取人に限定。

この制限は、郵便事業が公共性を有し、かつ、情報通信事業において最も重要な一部分をなすことから、多様かつ膨大な量の郵便物授受の役務を、あまねく、公平に、可及的低料金で、簡便、迅速かつ円滑に提供することが志向される。これを果たすため、賠償責任を制限し、危険負担コストが郵便料金に転嫁しないようにするため設けられた。

(原告側の主張)

国家賠償法の損害賠償責任は過失責任原則に基づくものであるのに対し、郵便法68条は国の無過失責任を認めるものである。このような両規定の性格の違いを考えると、郵便法68条は民法や国家賠償法による責任とは別個に、同条列挙の場合には特別の無過失責任を負う旨定めたものであり、同規定の限定列挙も特別の無過失責任について限定する趣旨である。したがって、郵便法68条は国家賠償法5条の「別段の定め」に当たらないから、本件の場合被告の国家賠償法による損害賠償責任は免除されない。

郵便法73条は同法68条の無過失責任の場合を受けて損害賠償請求権者を限定したものであるところ、原告はこれと異なり、過失責任に基づく国家賠償法による損害賠償を請求しているのであるから、本訴請求は郵便法73条によって制限されない。

本件における郵便局員の配達業務は公権力の行使に当たるから、本件については国家賠償法1条1項の適用がある。

最大判H14.9.11 郵便法違憲判決 上告審

国賠法5条の「別段の定め」と郵便法68条および73条の関係について

郵便法68条、73条は、その規定の文言に照らすと、郵便事業を運営する国は、法68条1項各号に列記されている場合に生じた損害を、同条2項に規定する金額の範囲内で差出人またはその承諾を得た受取人に対して賠償するが、それ以外の場合には、債務不履行責任であると、不法行為責任であるとを問わず、一切賠償しないことを規定したものである。とする。

「別段の定め」にあたるかは明言していないが、郵便法68条1項で列記されている場合に生じた損害を、同条2項で規定する金額の範囲内で、差出人又はその承諾を得た受取人に対して賠償するが、それ以外の場合には一切損害賠償をしないことを規定したものとして解しているので、「別段の定め」にあたると考えている。

17条にかかる「立法府の裁量権」について

「憲法17条は……その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については、法律による具体化を予定している。これは、公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び、公務員の行為の国民へのかかわり方には種々多様なものがあり得ることから、国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上、公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって、立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。そして、公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し、又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは、当該行為の態様、これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度、免責又は責任制限の範囲及び程度等に応じ、当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断」

↓あてはめ(特別送達郵便について)

「郵便の役務をなるべく安い料金で,あまねく,公平に提供することによって,公共の福祉を増進すること」という目的は正当であるが、「郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為についてまで免責又は責任制限を認める規定に合理性があるとは認め難い」という。

↓結論

郵便法68条、73条の規定のうち、特別送達郵便物について、郵便業務従事者の故意又は過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に、国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は違憲無効とした。

書留について

「適正かつ確実に配達されることに対する信頼は,書留の取扱いを選択した差出人はもとより,書留郵便物の利用に関係を有する者にとっても法的に保護されるべき利益である」。

「書留郵便物について,郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に基づき損害が生ずるようなことは,通常の職務規範に従って業務執行がされている限り,ごく例外的な場合にとどまるはずであって,このような事態は書留の制度に対する信頼を著しく損なう」が、「このような例外的な場合にまで国の損害賠償責任を免除し,又は制限しなければ法1条に定める目的を達成することができないとは到底考えられず」、「法68条73条の規定のうち,書留郵便物について,郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に,不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,……裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず,同条に違反し,無効である」

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