行政法~裁判例~住基ネット不接続に係る訴訟

行政法~裁判例~住基ネット不接続に係る訴訟

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住基ネット不接続に係る訴訟(国立市)

1、事案の概要

(1)住民基本台帳ネットワークの概要

平成11年、住民基本台帳法(以下「法」)が改正されて、住民基本台帳ネットワーク(以下「住基ネット」)が導入された。住基ネットは、住民基本台帳に記録された個人情報のうち、特定の本人確認情報(氏名、生年月日、性別、住所、住民票コード及び変更情報(転入転出等の異動情報等))を市町村、都道府県及び国の機関等で共有してその確認ができる仕組みを構築することにより、住民基本台帳のネットワーク化を図り、住民基本台帳に関する事務の広域化による住民サービスの向上と行政事務の効率化を図ることを目的とするものである(法6条、7条13号、30条の5から30条の8まで等)。

平成14年8月5日から一部が稼動(第1次稼動:住民票コードの住民票への記載、市町村長から都道府県知事への本人確認情報の通知、国及び地方公共団体等への本人確認情報の提供等に係る部分の導入)し、平成15年8月25日から全部が稼動(第2次稼動:住民票の写しの広域交付、転入転出の特例処理、住民基本台帳カードの交付等に係る部分の導入)している。

稼動には、市町村にある既存の住民基本台帳電算処理システムと住基ネットとを電気通信回線で接続する必要がある。

(2)国立市の運用

  • 不接続の経緯

国立市は、平成14年8月5日からの住基ネット第1次稼動に参加し、市のシステムと住基ネットとを接続した。一方で、当時の国立市長(前市長)は、個人情報保護対策とセキュリティ対策について強い懸念を抱いており、総務大臣に対して「住民基本台帳ネットワークシステムに関する質問書」を三度にわたって送付し、この回答を得た。そこで、この回答を検討した結果、万全の措置が講じられておらず、法36条の2に規定された長の責務を遂行することはできないと判断し、平成12年12月26日、住基ネットと接続していた電気通信回線の切断をするとともに、総務省及び東京都に対し、本件切断についての通知と、すでに送信された国立市民の個人情報の消去を求めた。

  • 不接続後の状況

東京都知事は、平成15年5月30日、国立市長に対し、法30条の5第1項に規定する事務(都道府県知事に対する本人確認情報の通知であり、同条2項により電気通信回線を使用して送信することにより行うものとされている。)の執行等を求める内容の勧告をした(地方自治法(以下「地自法」)245条の6)。

他方、最高裁判所は、大阪府守口市の住民が人格権に基づく妨害排除請求として住民基本台帳からの住民票コードの削除を求めた事案において、住基ネットにより行政機関が住民の本人確認情報を収集、管理又は利用する行為は、当該住民がこれに同意していないとしても、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではない旨の判決をした(最判平成20・3・6)。

また、杉並区が東京都及び国に対し賠償請求をした事案において、上告を棄却(最決平成20・7・8)し、市町村が独自に違憲性を判断し、法に定められた事務処理を行わないことは許されないとする高裁判決(東京高判平成19・11・29)が確定した。

東京都知事は、平成20年9月9日、再び国立市長に対し、法30条の5第1項に規定する事務を速やかに執行するよう勧告した(地自法245条の6)。しかし、国立市長はこれに従わなかったため、総務大臣は、東京都知事に対し、法違反を是正するために必要な措置を講ずるべきことを国立市長に求めるよう指示した(地自法245条の5第2項)。東京都知事は、これに従い、国立市長に対し、法に規定する事務を速やかに執行するよう求める是正の要求をした(地自法245条の5第3項)。国立市長は、これにも従わず、切断し続けた。

  • 出訴までの経緯

原告ら国立市の住民は、不接続により生じる費用の支出は違法な公金の支出に当たるとし、国立市長に対し、当該支出の差し止め及びそれまでの支出に相当する金員の補填を求める住民監査請求をした。しかし、国立市監査委員は、自治法242条8項の合意に至らず、その旨を当該住民に通知した。

そこで、原告らは、国立市長に対し、上記支出の差止めを求め(地自法242条の2第1項1号)、かつ、それまでの支出に相当する金員および遅延損害金につき、当該費用に係る財務会計行為の権限を有する国立市長に損害賠償の請求をすることを求める住民訴訟を提起した(自治法242条の2第1項4号)。

4号訴訟について(自治法242条の2第1項4号)

平成14年改正以前は、地方公共団体の長等の職員である個人を被告として、地方公共団体に代位して行う請求だったが、改正によって、地方公共団体の執行機関又は職員に対して、長等の職員又は行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを求める請求をする訴訟になった。

2、第一段目の訴訟 

東京地判H23.2.4 公金支出差止等請求事件

・原告の請求

1 被告は、以下の(1)から(5)までの公金を支出してはならない。

(1)旅券等の申請に伴い住民票の写しを無料で交付するに際して必要となる住民票用紙代

(2)住民の転出に伴い他の市町村(特別区を含む。以下同じ)に交付する返信用封筒に係る郵便代

(3)国立市が取りまとめた年金受給権者現況届を日本年金機構に送付するための郵送費

(4)(1)から(3)の事務をそれぞれ執行するための各人件費

(5)住民基本台帳ネットワークシステムサポート委託料

2 被告は、(前)市長に対し、571万8943円及びこれに対する平成21年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を国立市に支払うよう請求せよ。

・本案前の争点

〔1〕差止めの対象となる財務会計行為が特定されているか否か。

〔2〕監査請求期間が徒過したことにつき,正当な理由があるか否か。

・本案の争点

〔1〕本件切断及び本件不接続が違法で,その瑕疵が重大かつ明白であるか否か。

〔2〕財務会計行為が違法であり,公金支出の差止めが認められるか否か。

〔3〕違法な公金支出により市長が損害賠償責任を負うか否か。

・判旨

争点〔1〕(本件切断及び本件不接続が違法で、その瑕疵が重大かつ明白であるか否か)

「住基法30条の5第1項は、「市町村長は、住民票の記載,消除又は第7条第1号から第3号まで、第7号及び第13号に掲げる事項(…略…)の全部若しくは一部についての記載の修正を行った場合には、当該住民票の記載等に係る本人確認情報(…略…)を都道府県知事に通知するものとする。」と規定し、同条2項は、「前項の規定による通知は、総務省令で定めるところにより、市町村長の使用に係る電子計算機から電気通信回線を通じて都道府県知事の使用に係る電子計算機に送信することによつて行うものとする。」と規定しているのであって、市町村長が住民票の記載、消除等を行った場合に、都道府県知事に対し当該住民票の記載等に係る本人確認情報を送信しないという事態は全く想定されていない。加えて、住基法30条の7第3項から6項まで及び30条の10第1項は、市町村長から都道府県知事に対し、住民に係る本人確認情報の通知があることを前提として、都道府県知事又は指定情報処理機関は、国の機関等からその事務に関し求めがあったときは、保存期間に係る本人確認情報を提供することを規定しているから、仮に市町村長が住民票の記載,消除等を行った場合であっても、都道府県知事に対し当該住民票の記載等に係る本人確認情報を送信しなくてもよいということになれば、一部の住民について正確な本人確認情報が保存されないという事態が発生し、国の機関等からその事務に関し求めがあったときに正確な本人確認情報を提供することができなくなることは明らかである。さらに、都道府県知事は、市町村長から通知された本人確認情報を保存すること(住基法30条の5第3項)、本人確認情報の適切な管理のために必要な措置を講じること(同法30条の29第1項)、区域内の市町村の住民基本台帳に脱漏若しくは誤載があり、又は住民票に誤記若しくは記載漏れがあることを知ったときは当該市町村長に通報すること(同法12条の5)などの責務を負っているから、都道府県知事が、本人確認情報の正確性を担保し、その保存、提供等の事務を適切に実施するためには、住基法30条の5第1項に基づき、区域内の全ての市町村長から、全ての住民に係る本人確認情報の通知を受けることが必要不可欠である。

そうすると、一部の市町村の不参加があると、国の機関等を始めとする本人確認情報の利用者において、従来のシステムや事務処理を残さざるを得ないことになり、また、……不参加の市町村の住民については、ネットワーク以外の手段により当該事務に必要な氏名、住所等の情報を収集するか提出させることになるから、……行政コストの削減を図るという住基ネットの目的は達せられないことになる。さらに、……市町村においてネットワークによらない住民基本台帳事務の処理方法を残すことになると、住基法が目的とする市町村における住民基本台帳事務の効率化は著しく阻害されることにもなる。したがって、市町村は、都道府県知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信するため、住基ネットに接続する法律上の義務を負うというべきである。」

「本件切断及び本件不接続は、被告において本人確認情報を東京都知事に対して送信しないということであるから、これは、上記の法律上の義務に違反するもので、違法といわざるを得ない。そして、その違法は、住民の利便を増進するとともに国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする住基法に明らかに違反して、その目的の達成を妨害するものであり、また、被告は……東京都知事から是正の要求まで受けているのであるから、その瑕疵は重大かつ明白であるというべきである。」

争点〔2〕財務会計行為が違法であり、公金支出の差止めが認められるか否か。

※将来の住基ネットサポート委託料に関する部分についてのみ認められた。

住基ネットサポート委託料の支払いは、「本件不接続の状態が継続しているために必要なものであって,住基ネットに接続していれば必要ないものであると認められるから,当該委託料の支出も違法というべきである。……もっとも,普通公共団体における契約の締結が,財務会計上の義務に違反し違法であるとしても,当該契約が私法上無効とはいえない場合には,普通公共団体は契約の相手方に対して当該契約に基づく債務を履行すべき義務を負うのであるから,当該債務の履行として行われる行為自体はこれを違法ということはでき」ないので、「既に締結された本件委託契約に基づいて支払義務が生じている住基ネットサポート委託料に係る支出命令を行うことは違法とはいえず,当該行為の差止めを請求することは許されない。」

「しかしながら,他方,将来の住基ネットサポート委託料の支払の差止めについては許されないものではなく,また,被告が本件切断及び本件不接続に重大かつ明白な瑕疵はなく,本件各支出も適法であると主張していることからすれば,今後も住基ネットサポート委託料の支出がされるであろうことは,相当な確実さをもって予測されるところであるから,本件判決確定時において支払義務が生じているものを除く住基ネットサポート委託料の支出は差止められるべきものである。」

争点〔3〕違法な公金支出により(前)市長が損害賠償責任を負うか否か。

現況届郵送費及び住基ネットサポート委託料について認められた。

「現況届郵送費及び住基ネットサポート委託料に係る支出負担行為及び支出命令は、あらかじめ他の職員に専決により処理させることとされているけれども、地方公共団体の長は、その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為をあらかじめ特定の職員に委任することとしている場合であっても、当該財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、当該財務会計上の行為の適否が問題とされている住民訴訟において,地方自治法242条の2第1項4号前段にいう「当該職員」に該当する」。

「委任を受けた職員が委任に係る当該財務会計上の行為を処理した場合においては、長は、同職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により同職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして、普通公共団体に対し、当該違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当であって、このことは,財務会計上の行為を専決により処理させた場合も同様である」。

本件切断及び本件不接続は、「違法であり、その瑕疵は重大かつ明白であるというべきであって、許容される余地のないものと解されるのであるから、Aは、そのような政策決定を撤回して職員が各財務会計行為を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務を負うものというべきであり、これを阻止しなかったことについて故意が認められるというべきである。

したがって、Aには,財務会計上の違法行為が認められ、それによって国立市が被った損害につき賠償責任を負うというのが相当である。

そこで、本件不接続により行われた違法な公金支出によって国立市が被った損害額について検討すると、その金額は、以下のとおり、合計39万8040円であると認められる。

(ア)現況届郵送費

平成20年7月1日から同21年6月30日までの支出分 2万5990円(争いがない)

監査請求期間が徒過したもの 4270円

差引損害額 2万1720円

(イ)住基ネットサポート委託料

平成20年4月1日から同21年3月31日までの支出分 56万4480円(争いがない)

監査請求期間が徒過したもの 18万8160円

差引損害額 37万6320円」

  • 控訴取り下げ

前市長は控訴した。しかし、平成23年4月24日の選挙で前市長を破って当選した新市長が、同年5月24日に控訴を取り下げ、訴訟が終結した。これは、前市長の意に反する取り下げであった(→参加的効力が及ばない。民訴法46条、法242条の3第4項)。

3、二段目の訴訟

法242条の2第1項第4号の住民訴訟(「一段目の訴訟」)について確定した場合、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から60日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない(法242条の3第1項)。 そして、当該判決が確定した日から60日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟(「二段目の訴訟」)を提起しなければならない(法242条の3第2項)。前国立市長が損害賠償金を支払わなかったため、国立市が原告となり、前市長を被告として、法242条の3第2項の訴訟を提起した。

一審 東京地判H25・3・26

本訴訟において被告である前市長は、一段目の訴訟に補助参加していたが、意思に反する控訴取下げがなされたため、一段目の訴訟についての参加的効力(民訴法46条、法242条の3第4項)が及ばないことになるため、一段目の訴訟と同じ争点について、再度審理された。

・原告の請求

39万8040円及びこれに対する平成21年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

・争点

〔1〕被告による本件不接続の継続が住基法に違反する違法なものか否か。

〔2〕被告が本件各支出について損害賠償責任を負うか否か。

・判旨

争点〔1〕

一段目の訴訟と同じく、住基法30条ら住基ネットに接続すべき義務を導き出して、「国立市長であった被告が本件不接続を継続して東京都知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信しなかったことは、住基法に違反する違法なものであったというべきである。」と示した。

さらに、以下のように述べて、不接続が住基法上の義務に違反する違法なものだったと判断した。

住基ネットを含む住民基本台帳事務は市町村の自治事務(法2条8項)であるが、「地方公共団体は国の法令に違反してその事務を処理してはならないことは当然のことであって(地方自治法2条16項参照)、そのことは自治事務についても同様である。」また、「住基ネットは憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものでもない(平成20年最高裁判決参照)から、住基法が、市町村長に上記のような義務を課しており、住基ネットに接続するか否かの判断権を市町村長に付与していないことが、憲法が保障する地方公共団体の団体自治(憲法92条、94条)を侵害する違憲無効なものとはいえない。……そして、住基法3条1項は「市町村長は、常に、住民基本台帳を整備し、住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と規定し、同法36条の2は「市町村長は、住民基本台帳又は戸籍の附票に関する事務の処理に当たっては、住民票又は戸籍の附票に記載されている事項の漏えい、滅失及びき損の防止その他の住民票又は戸籍の附票に記載されている事項の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」と規定しているにとどまる」ため、「市町村長が住基ネットを利用した本人確認情報の送信をしないことを許容するものとは到底解されない。」

争点〔2〕

地方自治法242条の2第1項4号所定の当該職員に損害賠償の請求をすることを当該普通地方公共団体の長に対して求める訴訟は,財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し,職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならないから,当該職員の財務会計上の行為をとらえて上記規定に基づく損害賠償責任を問うことができるのは,たとえこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,同原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である(最高裁判所平成4年12月15日第三小法廷判決……参照)。」

本件各支出が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであったといえるか否か

普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体に対して、その事務を誠実に執行すべき職務上の義務を負うところ(地方自治法138条の2)、長が財務会計上の行為をするに当たっては、この誠実執行義務もまた、財務会計法規上の義務の一内容を成すものと解される。そして、国立市長であった被告は、予算執行権限(地方自治法149条2号,220条1項)を有する普通地方公共団体の長として、本件各支出について本来的な権限を有していたのであるから、上記誠実執行義務に基づき、本件不接続を継続するという自らの違法な判断を是正・撤回して住基ネットに接続することによって、本件各支出を阻止すべき行為規範を課されていたものというべきである。

ところで、本件において、国立市長であった被告は、本件各支出について本件各専決権者に専決させたものであり、保険年金課長、市民部長及び総務課長の職にあった本件各専決権者は、そもそも住基ネットに接続すべきか否かを判断する権限や本件不接続の継続という被告の判断を是正する権限を有していなかったことは当事者間に争いがないところ、このように財務会計行為を行った執行機関又は職員が原因行為を是正する権限を有しない場合には、その原因行為が著しく合理性を欠き、そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるときでない限り、これを尊重し、その内容に応じた財務会計上の措置を執る義務があるというべきである(上記最高裁判所平成4年判決,最高裁判所平成15年1月17日第二小法廷判決……,最高裁判所平成17年3月10日第一小法廷判決……参照)。

しかしながら、……国立市長である被告が住基ネットに接続すべき義務を負っていることは住基法上明らかであっただけでなく、被告による本件不接続の継続は、住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする住基法に明らかに違反する(同法1条参照)ものであったところ、……本件各支出がされた平成20年9月29日以降の時点においては、既に平成20年最高裁判決及び平成19年東京高裁判決が出され、その内容が原告の市報に掲載されていただけでなく、平成20年9月9日付けで東京都知事から地方自治法245条の6に基づく是正の勧告まで受けていたのであるから、被告による本件不接続の継続の判断が著しく合理性を欠くものであって、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があることは、本件各専決権者にも明らかであったものと認められる。

そして、国立市長であった被告から本件各支出の専決を任された本件各専決権者は、本件各支出を専決するに当たって、被告と同様に誠実執行義務(地方自治法138条の2)を負っていたのであるから、被告による本件不接続の継続の判断が著しく合理性を欠くものであって、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があったにもかかわらず、その是正を働きかける等の努力をしたり、本件各支出をしないという判断をしたりすることなく、漫然と本件各支出をしたことは、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであったというべきである。

したがって、本件各専決権者がした本件各支出は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであったというべきである。

違法な本件各支出がされたことについて,本件各専決権者に本件各支出を専決させた被告が損害賠償責任を負うか否か

ア 一般に、普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計行為を補助職員が専決により処理した場合は、長は、上記補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により上記補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして、当該違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害について損害賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成3年12月20日第二小法廷判決……、最高裁判所平成9年4月2日大法廷判決……参照)。

イ そこで、被告に上記のような指揮監督上の義務違反があったか否かについて検討するに、前記争いのない事実等(3)イ(ウ)及び証拠(甲11,13,14,乙1の17)によれば,本件各支出がされた平成20年9月より前に発行された原告の市報においては,住民が国立市役所又はその出先機関に現況届を持参すればこれを原告が社会保険庁に送付することが繰り返し広報されており,国立市長であった被告は上記各市報の発行前にその内容を確認して決裁していたこと,平成19年6月開催の国立市議会の定例会において,国立市議会議員から,本件不接続を継続している状態での住基ネットサポート料の支出等について質問がされ,国立市長であった被告が住民異動データのバックアップ事務を行っている旨答弁するとともに,市民部長が具体的な金額等について答弁していることがそれぞれ認められる。これらの事実によれば,被告は,本件不接続を継続することによって,本件各費用の支出が必要となり,本件各専決権者が本件各支出を行うことを知っていた,あるいは少なくとも容易に知り得たものと認められる。

また,上記(1)アで述べたとおり,東京都知事に対して住民票の記載等に係る本人確認情報を電気通信回線を通じて送信するため,国立市長である被告が住基ネットに接続すべき義務を負っていることは住基法上明らかであっただけでなく,被告による本件不接続の継続は,住基法に明らかに違反し,同法の目的達成を妨害するものであったところ,平成20年最高裁判決及び平成19年東京高裁判決が出され,その内容が原告の市報に掲載されていただけでなく,被告は,平成20年9月9日付けで東京都知事から地方自治法245条の6に基づく是正の勧告まで受けていたものである。

そうすると,被告は,遅くとも本件各支出がされた平成20年9月29日より前から,本件不接続を継続する旨の判断を是正・撤回して住基ネットに接続することにより,本件各専決権者が本件各支出を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず,被告は,上記指揮監督上の義務を怠って漫然と本件各支出をさせたものであるから,上記で述べた事実関係に照らせば,被告が上記義務を怠ったことについて,故意又は少なくとも過失があったことは明らかというべきである。

そうすると,被告は,本件各専決権者が本件各支出を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務を怠ったことにより,原告が被った損害について損害賠償責任を負うものというべきである。

ウ そして,本件各支出は被告が本件不接続の継続という判断を是正・撤回していれば不要であったものと認められるから,原告は,被告の上記違法行為により,本件各費用相当額である39万8040円の損害を被ったものというべきである。

なお,原告は,被告が国立市長を退任した後に住基ネットに再接続した際,本件委託契約に基づきバックアップしていた住民異動データを用いたものと推認されるが,本件委託契約は日々生じる住民異動データを順次バックアップしていくために締結されたものであり,本件委託料支出がされた平成20年9月より前の時点で被告が本件不接続の継続という判断を是正・撤回していれば,それ以降の本件委託料支出はそもそも不要であったものと認められるから,原告が本件委託料相当額の損害を被ったことには何ら変わりがないというべきである。

(3)以上によれば,被告は,原告に対し,不法行為に基づき,本件郵送費等相当額の損害賠償金39万8040円及びこれに対する不法行為後の日(本件各支出がされた後の日)である平成21年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものというべきである。

控訴審 東京高判H26・2・26

控訴人の主張

因果関係があることをもって違法性の承継を認めると、広く非財務会計行為の違法が争われることになり、住民訴訟の対象を財務会計行為に限定した法の趣旨が没却されるから、先行する非財務会計行為に違法性があることをもって後行する財務会計行為が違法となるのは、先行の非財務会計行為が後行の財務会計行為の直接の原因をなすものである場合に限られると解釈するべき。

・郵送費の支出は、住民の利便性を図る必要性や、年1回の郵送費用は低額であり、職員の事務負担も従前の業務時間内で十分対応できることから、市民が市役所に持参した現況届を国立市においてまとめて郵送することにしたによる。したがって、本件不接続から法令上直ちに義務付けられるものではなく、本件不接続が本件郵送費支出の直接の原因をなすものとはいえない。

・委託料の支出は、住基ネット再接続に備え、住民異動データのバックアップ作業を民間事業者に委託した費用であり、本件委託料の支出負担行為は、私法上の契約である民間業者との有償委託契約(本件委託契約)である。本件委託契約の締結も本件不接続から法令上直ちに義務付けられるものではないから、本件委託料の支出についても、本件不接続が直接の原因をなすものとはいえない。

最高裁判所平成20年1月18日第二小法廷判決は,契約を締結した普通地方公共団体の判断に「裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用」があり,契約を無効としなければ地方自治法2条14項,地方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるときに,契約が私法上無効となり得ることを判示した。しかし,仮に本件委託契約が違法に締結されたものであるとしても,本件委託契約は住基ネット再接続に向けた準備としての契約であって,裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用はなく,上記特段の事情は認められない。したがって,本件委託契約は私法上無効ではない。

最高裁判所平成25年3月21日第一小法廷判決は,次のとおり判示した。

「普通地方公共団体が締結した支出負担行為たる契約が違法に締結されたものであるとしても,それが私法上無効ではない場合には,当該普通地方公共団体が当該契約の取消権又は解除権を有しているときや,当該契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,当該普通地方公共団体が当該契約の相手方に事実上の働きかけを真摯に行えば相手方において当該契約の解消に応ずる蓋然性が大きかったというような,客観的にみて当該普通地方公共団体が当該契約を解消することができる特殊な事情があるときでない限り,当該契約に基づく債務の履行として支出命令を行う権限を有する職員は,当該契約の是正を行う職務上の権限を有していても,違法な契約に基づいて支出命令を行ってはならないという財務会計法規上の義務を負う者とはいえず,当該職員が上記債務の履行として行う支出命令がこのような財務会計上の義務に違反する違法なものとなることはないと解するのが相当である。」

この判例の枠組みに従えば,仮に本件委託契約が違法に締結されたものであるとしても,前記のとおり住基ネット再接続に向けた準備としての契約であって,私法上無効ではないから,国立市は相手方民間業者に対し債務を履行すべき義務を負う。したがって,その債務の履行として本件支出命令を専決する市民課長は,国立市において相手方民間業者に対する委託料支払義務を解消することができるときでなければ,本件委託料の支出命令を行ってはならないという財務会計上の義務を負うものではない。

本件委託契約には,上記最高裁判例のいう「著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵」はなく,委託契約の相手方に契約解消に向けて働きかけるべき事情がないから,国立市において,相手方に真摯に説明して期間内解約を働き掛けるべき義務も生じ得ない。したがって,本件委託契約に基づく本件支出行為は適法というべきである。

本件不接続の違法性について

原判決を引用して、不接続自体の違法性(住基法上の義務違反)を認めた。

本件各支出の違法性について

(1)本件不接続の違法性と本件各支出の違法性

「法242条の2第1項4号に定める普通地方公共団体の職員に対する損害賠償の請求は、財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対して、職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならないから、当該職員の財務会計上の行為を捉えて上記損害賠償の請求をすることができるのは、たといこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、その原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解される(最高裁……平成4年12月15日第三小法廷判決……,最高裁平成……25年3月21日第一小法廷判決……参照)。

そして,……自己の権限に属する財務会計上の行為を規則等に基づいて補助職員に専決により処理させた者が地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」として普通地方公共団体に対し損害賠償責任を負うのはその者において補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し故意又は過失により補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかった場合に限られると解すべきである(最高裁平成……3年12月20日第二小法廷判決……参照)。」

「したがって、……本件不接続が本件各支出の前提となった原因行為でありこれに違法事由が存するというだけではなく、各専決権者のした本件各支出自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであり、かつ、控訴人において、各専決権者が財務会計上の違法行為である本件各支出をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により各専決権者が本件各支出をすることを阻止しなかったことを要する」。

(2)本件郵送費支出は財務会計法規上の義務に違反する違法なものか

「本件郵送費支出は、本件不接続によって生じる住民の負担を軽減、是正するための費用ということができ、住民の上記負担の軽減という当該支出により得られる利益に比して、その支出による損失が著しく多額で均衡を欠くことをうかがわせる事情は認められない。

他方、本件不接続があるからといって、当然に本件郵送費支出が必要となる訳ではなく、本件郵送費支出の有無にかかわらず、本件不接続を継続することも可能であるから、本件郵送費支出が本件不接続の効果を実現したりそれを助長するものとはいえず、仮に本件郵送費支出を止めたとしても、本件不接続による違法が解消されるものでもない。

加えて、普通地方公共団体が住民の福祉を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされていること(地方自治法1条の2第1項)などを考慮すると、本件不接続が住基法に違反しており、その違法が重大かつ明白であるとみられること、本件郵送費支出はそもそも本件不接続がなければ不要であったと認められること等の事情を考慮しても、控訴人から本件郵送費支出の専決を委ねられた補助職員である保険年金課長において本件郵送費を支出したことが,財務会計法規上の義務に違反し違法であるとまでいうことはできない。また、控訴人において本件不接続を取り消す権限があり、本件不接続による違法を是正すべきであったとしても、控訴人が市長に就任する前に始められていた住民の現況届の社会保険庁への送付の取扱いについて、控訴人に、直ちにこれを中止させ,本件郵送費支出を阻止すべき指揮監督上の義務があったということもできない。」

(3)本件委託料支出は財務会計法規上の義務に違反する違法なものか

「新市長は住基ネット再接続の方針を掲げていたものの、住基ネット再接続に至るまでの間に本件委託契約を解消しようとした形跡はうかがわれず、同契約により保存されたバックアップデータを用いて住基ネット再接続を実行したと推認される。このことからすると……住基ネットに再接続をするために有益であったということができ……本件委託料が本件委託契約により得られる利益に比して著しく均衡を欠くほど多額であったことをうかがわせる事情は見当たらない。

他方、本件不接続がなければ本件委託契約の締結は不要であったといえるが、本件委託契約及び委託料支出の有無にかかわらず本件不接続を継続することは可能であるから、本件委託契約によって本件不接続が実現されたり助長されるとはいえず、本件委託契約を解消することによって本件不接続が解消できるともいえない。

そうすると、本件不接続の継続が住基法に違反し、その違法性が重大かつ明白とみられること、そもそも本件不接続の継続がなければ本件委託契約の締結や本件委託料支出も不要であったこと等の事情を考慮しても、被控訴人において将来の住基ネット再接続に備えて本件委託契約を締結したことに全く合理性がないとはいえず、被控訴人の総務部長が本件委託契約を締結したことが、直ちに違法であるということはでき」ず、「これに基づく被控訴人の市民課長による本件委託料の支出命令が財務会計上の義務に違反し、違法ということもできない

なお、普通地方公共団体が締結した支出負担行為たる契約が違法に締結されたものであるとしても、それが私法上無効ではない場合には、当該普通地方公共団体が当該契約の取消権又は解除権を有しているときや、当該契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し、かつ、当該普通地方公共団体が当該契約の相手方に事実上の働きかけを真摯に行えば相手方において当該契約の解消に応ずる蓋然性が大きかったというような、客観的にみて当該普通地方公共団体が当該契約を解消することができる特殊な事情があるときでない限り、当該契約に基づく債務の履行として支出命令を行う権限を有する職員は、当該契約の是正を行う職務上の権限を有していても、違法な契約に基づいて支出命令を行ってはならないという財務会計法規上の義務を負う者とはいえず、当該職員が上記債務の履行として行う支出命令がこのような財務会計上の義務に違反する違法なものとなることはない(最高裁……平成25年3月21日第一小法廷判決……参照)。

そして、本件委託契約につき、そのような事情は見当たらないので、「本件委託契約に基づく債務の履行として支出命令を行う権限を有する市民課長は、違法な契約に基づいて支出命令を行ってはならないという財務会計法規上の義務を負う者とはいえず、同課長が上記債務の履行として行う支出命令がこのような財務会計上の義務に違反する違法なものとなることはないというべきである。

さらに、控訴人において、控訴人が市長に就任する前に始められていた本件委託契約について、直ちにその継続を中止させ委託料の支出を阻止すべき指揮監督上の義務があったということはできず、自ら積極的にその継続を指示したことを認めるに足りる証拠もない。

したがって、本件各支出について、控訴人に各専決権者に対する指揮監督を怠った違法はない」。

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