国民審査~渋谷温泉施設爆発事故での小池・大谷裁判官

この記事の所要時間: 62

渋谷温泉施設爆発事故

国民審査対象裁判官が、個別の意見を述べた判決を取り上げます。(小法廷での個別意見付与は少ないですが…。大法廷については下↓の記事をご覧下さい。)

時事問題~国民審査対象裁判官の大法廷での意見
第24回最高裁判所裁判官国民審査 平成29年10月22日執行 国民審査対象裁判官の大法廷での意見をまとめました。 対象裁判官7名 ...

事件の経緯

平成19年6月19日、東京都渋谷区の温泉施設で大規模な爆発が発生し、従業員3名が死亡、2名が負傷、付近路上において通行人1名が負傷した。

温泉から天然ガスを分離する装置が設置されていたが、天然ガスを屋外に排出するためのU字状の排気管が結露した水で塞がれたことと換気扇の稼働に問題があり、天然ガスが施設内部に逆流・蓄積された。そして、このガスに、温泉の汲み上げを自動調整する制御盤のスイッチが動作した際に出た火花が触れたことによって爆発した。

温泉一次処理施設を単独で設計していた被告人(本件建設会社の従業員)は、本件建設会社の施工担当者に対して,排ガス処理のための指示書として,設計内容を手書きしたスケッチを送付したが,結露水排出の意義や必要性について明示的な説明はされなかった。

また、本件温泉施設の施工を担う下請会社の担当者にも説明はされなかった。

最小判平成28年5月25日 業務上過失致死傷被告事件

刑集70巻5号117頁

裁判長裁判官 大谷直人
裁判官 櫻井龍子 山浦善樹 池上政幸 小池裕

被告人(処理施設を単独で設計した本件建設会社社員)は,「その建設工事を請け負った本件建設会社におけるガス抜き配管設備を含む温泉一次処理施設の設計担当者として,職掌上,同施設の保守管理に関わる設計上の留意事項を施工部門に対して伝達すべき立場にあり自ら,ガス抜き配管に取り付けられた水抜きバルブの開閉状態について指示を変更し,メタンガスの爆発という危険の発生を防止するために安全管理上重要な意義を有する各ガス抜き配管からの結露水の水抜き作業という新たな管理事項を生じさせた

そして,水抜きバルブに係る指示変更とそれに伴う水抜き作業の意義や必要性について,施工部門に対して的確かつ容易に伝達することができ,それによって上記爆発の危険の発生を回避することができたものであるから,被告人は,水抜き作業の意義や必要性等に関する情報を,本件建設会社の施工担当者を通じ,あるいは自ら直接,本件不動産会社の担当者に対して確実に説明し,メタンガスの爆発事故が発生することを防止すべき業務上の注意義務を負う立場にあったというべきである。」

大谷直人の補足意見
<弁護士へのリップサービス型の補足意見>

「法廷意見は,本件の事実関係を前提にするとき,被告人はその業務上の注意義務を怠ったといえる旨を述べた上で,本件がいわゆる信頼の原則を適用すべき事案に当たるとする弁護人の所論を排斥しているが,上告趣意中では,予見可能性がないという観点からの主張もされているので,この点についての私の意見を補足する。」

「法廷意見に判示されているとおり,本件においては,メタンガスがB棟地下機械室内に漏出した後,B棟排気ファンが停止していたためにガスが滞留したという事態が生じており,また,第1審判決及び原判決において,B棟排気ファンの異常をA棟事務室に知らせるために設けられていた警報盤の警報ブザーが鳴らなかったことも認定されている。弁護人の所論は,このような本件爆発の機序に関わる事実関係を前提にして,結果の予見可能性が被告人には認められないとするものである。」

「しかし,本件は,業務運営上メタンガスの発生が不可避となる温泉施設において,ガスの引火・爆発を防止するための安全対策に関して,設計面における担当者がその任務を果たしたかが問題とされている事案である。そして,設計に当たっては,ガス抜き配管設備が本来的なメタンガス排出装置として想定され,その安全を更に担保するものとして,B棟排気ファン等の装置が組み込まれたことは明らかである。したがって,水抜きバルブを閉め続けることにより,ガス抜き配管について当初の設計上予定されていたメタンガス排出の機能に重大な問題が生じるおそれがあったということは,この設計の全体像に関わる問題ということができる。第一義的な安全装置として設計されたシステムの機能についてその後問題点を生じ得る事情が判明した場合に,設計担当者としては,その点の改善の必要性を伝達するか,仮にそれを放置するのであれば,当然に,二次的,三次的に設けられた予防装置が当初の設計のままでよいのかについての見直し作業を行うことが求められるはずである。そうした行動をとることを怠った被告人について,排気ファン等の存在をもってその過失責任を否定することはできない。第1審,原審も,このような枠組みを前提に,被告人の過失を肯定したものと解される。」

「結果発生に至る因果のプロセスにおいて,複数の事態の発生が連鎖的に積み重なっているケースでは,過失行為と結果発生だけを捉えると,その因果の流れが希有な事例のように見え具体的な予見が可能であったかどうかが疑問視される場合でも,中間で発生した事態をある程度抽象的に捉えたときにそれぞれの連鎖が予見し得るものであれば,全体として予見可能性があるといえる場合がある。これまでの裁判実務においては,このような考え方に立って過失の有無が論じられてきた事例が存在する。しかし,上記3のとおり本件の注意義務を理解するとき,本件は,上記のような予見可能性の判断手法,すなわち,連鎖的な事態が発生していることを捉えて「因
果関係の基本的部分」は何かを検討する手法によるのがふさわしい類型とはいえないと思われる。「基本的部分の予見可能性」というポイントは,メタンガス処理の安全対策としての本件設計の意義をどのようなものと認識するかという検討に解消されているということもできよう。過失犯については,結果の予見可能性,回避可能性という大枠によって成否を判断するのがこれまでの確立した考え方であり,もとより本件もその枠組みの中で検討されることになるが,その争点化に当たっては,具体的にどのような基準等が有用な判断要素になるかにつき,この種事案特有の多様な事件類型に応じて,適切な抽出が求められるところであろう。」

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