学説判例研究~憲法~国籍法違憲訴訟

この記事の所要時間: 1137

憲法学説判例研究 国籍法違憲訴訟

制度準拠審査(立法裁量との関係)

参照:小山権利の作法p173~186

制度との関わりの中で生じる基本権問題の処理には、「権利の侵害」を前面に出して論じる場合と、「制度の形成」として立法裁量を優越させて論じる場合とがある。

「制度の形成」として論じる場合であっても、違憲に導く方法

「制度形成」の論証パターンとしては、立法裁量強調型と立法裁量縮減型、さらに立法裁量限定型とに区別することができる。

立法裁量強調型 … 広範な立法裁量が前面に出て、常に極めて緩やかな基準で審査され合憲となる(非嫡出子法定相続分平成7年合憲裁決、衆議院小選挙区制平成11年合憲最判、参院議員定数訴訟平成16年最決の町田ら5裁判官の補足意見)

立法裁量縮減型 … 立法者による第一次的判断権の行使を受けて、立法者の基本決定との首尾一貫性を検討するという形で、合理性が比較的詳細に具体的に検討される場合(奈良児童扶養手当支給打ち切り事件平成14年最判、総選挙定数訴訟平成23年最判の一人別枠方式について)

立法裁量限定型 … 法の下の平等が制度形成の立法裁量に限界を画する場合(国籍法平成20年違憲最判、非嫡出子法定相続分平成7年合憲最決の中島ら5裁判官の反対意見)


判例の蓄積が不十分ではあるが、まず、法の下の強く要請される事例においては、立法裁量限定型がとられるべきである。この意味で投票価値の平等について立法裁量縮減型(総選挙定数訴訟平成23年最判)で満足するのは違和感がある。

次に、立法裁量強調型と立法縮減型は、理屈としては同根である。制度形成に付随して生じる取り扱いの差異は、立法者が裁量権の枠内で設定した制度の目的・基本設計から演繹される限り、基本的には立法者の裁量的判断に属する問題として処理される。立法裁量縮減型は、適切な準拠点が獲得できる限り抽象論に陥ることなく、綿密な審査を可能とする意義がある。

強調型となるか縮減型となるかは、当該規制が制度の目的・基本設計と順接であるか逆接であるかという個別事例に依存する。すなわち、原告Xが本来は立法者の設定した目的の内にあるものであれば縮減型(奈良児童手当支給打切り事件最判)で、その外にあるものであれば強調型(選挙運動の便宜格差など)で審査される。

最大判H20.6.4 国籍法違憲訴訟 上告審

法律上の婚姻関係にない日本人の父、フィリピン人の母の間に生まれ、父に生後認知された子(原告)が、出生後父親から認知を受けたことを理由に、法務大臣宛に国籍取得届を提出したところ、原告が国籍取得の条件を備えているものとは認められないとの通知を受けたことから、日本国籍を有することの確認を求めて国を被告として提訴。

本判決は「父母両系血統主義を採用する国籍法」と「密接な結びつき」に着目している。国籍の付与については、大別して血統主義と出生地主義がある。
血統主義 一般的。ヨーロッパはもともと血統主義。戦後移民を受け入れるため生地主義を採用したが。
生地主義 アメリカに代表されるもの。移民の多い国で都合がよい。日本も例外として生地主義がある(2条3号)。
立法者が血統主義を採用し、さらに、わが国との密接な結びつきを有するものに日本国籍を付与するという判断を行うことは、当然に立法裁量の枠内である。
しかし、本判決は、制度の論理の中に権利(法の下の平等)の理論が吸収された非嫡出子法定相続分事件決定とは異なり、法の下の平等によって立法裁量に対して外側から限定が加えられた。
国籍法 第2条 子は、次の場合には、日本国民とする。
1.出生の時に父又は母が日本国民であるとき
2.出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき
3.日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき
※女子差別撤廃条約の批準を受けて「又は母」という文言が追加された。これにより、日本人の母の場合は、嫡出でも非嫡出でも国籍取得できるのに、日本人の父の場合は、事前認知の場合でないと国籍取得できない。

そこで、2条の補完手段として日本人が父のときは婚姻+認知を届出る仕組みを作った。
国籍法旧3条1項  父母の婚姻+認知=準正 → 嫡出子の身分取得(民法789条)
法務大臣に届出することで、日本国籍を取得する。
3条1項があることで、認知の効力が遡及しないと解されている。
2002年11月22日最高裁判決では、認知の効力が遡及せず、2条1号により国籍取得を否定した。しかし、5人中3人の裁判官補足意見で、国籍法3条1項が違憲となる可能性があるといわれていた。これを契機として、本訴訟がなされたといえる。

違憲審査基準の枠組み

「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」と規定する憲法10条につき、「国籍は国家の構成員としての資格であり、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種種の要因を考慮する必要があることから、これをどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される」。としながら、「日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が、合理的理由のない差別的取扱いとなるときは、憲法14条1項違反の問題を生ずる」とする。

   ↓

「立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差別として、同項に違反する」とした。

この部分は、非嫡出子や選挙制度についての説示と基本的な法的構成自体は異ならない。

(国籍の重要性+嫡出・非嫡出の区別の意味)

「日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは、子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって、このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要である。」

(血統+密接な結び付き)

国籍法3条1項の規定が設けられた主な理由は、「日本国民である父が出生後に認知した子については、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得することによって、日本国民である父との生活の一体化が生じ、家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずることから、日本国籍の取得を認めることが相当であるという点にある」。

また、「日本国民を血統上の親として出生した子であっても、日本国籍を生来的に取得しなかった場合には、その後の生活を通じて国籍国である外国との密接な結び付きを生じさせている可能性があるから、国籍法3条1項は、同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ、日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて、これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解される」。

国籍法3条の立法目的は、血統主義を基調としつつ、日本と密接な結びつきを有する指標として「父母の婚姻」を要求するというものであって、合理的な根拠があるといえる。しかし、制定時(1984年)当時は良かったが、情勢の変化で、合理的な理由を失った。
→ 反対意見:そんなに情勢は変わっていない=合憲
→ 少数意見:そもそも制定時から、合理性などなかった=違憲

   ↓あてはめ

国籍法は父母両系血統主義を採用し、日本国民である父または母との法律上の親子関係があることをもってわが国との密接な結び付きがあるものとして日本国籍を付与するという立場に立っている。しかし「同じく日本国民を血統上の親として出生し、法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず、日本国民である父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては、生来的に日本国籍を取得しないのみならず、同法3条1項所定の届出により日本国籍を取得することもできないことになる。このような区別の結果、日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが、日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない」。

そして、国籍法が「非嫡出子についてのみ、父母の婚姻という、子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り、生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は、今日においては、立法府に与えられた裁量権を考慮しても、我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく、その結果、不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない」。

藤田意見の「拡張解釈」の正当化論について。立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地が極めて限られていると考えられる場合には、個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で合理的拡張解釈が許されるとする。認められる範囲、要件をかなり厳格にすることで、拡張解釈を可能としようとしている。許されるべきではないか。<不作為の問題であるとしながら、拡張解釈をすることができるとするもの>
限定解釈か、拡張解釈か。 多数意見は、原則として父母両系血統主義があることから、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限って届出により国籍を取得できるとするのは、過剰な要件を課するものであり、合理性がないとする。すなわち、この過剰な要件を除去すれば、血統主義によって国籍が取得できるとする。反対意見は、創設的・授権的規定であるから、過剰な要件ではなく、不十分な要件しか置いていないことが問題であるとする。この救済としては、不十分な部分を補充することだとする。

(結論)

「上告人は、国籍法3条1項の規定により日本国籍を取得したものと認められるところ、これと異なる見解の下に上告人の請求を棄却した原審の判断は、憲法14条1項及び81条並びに国籍法の解釈を誤ったもので……原判決は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、上告人の請求には理由があり、これを認容した第1審判決は結論において是認することができるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。」

東京地判H17.4.13 国籍法違憲訴訟 第一審

同法3条1項において、準正子と非準正子との間で区別が生じている。

被告は、日本人を父とする生後認知を受けた非嫡出子に届出による国籍取得を認める要件として、父母の婚姻を定めるのは、それにより家族としての共同生活が営まれることが多いことを前提として当該非嫡出子と日本との間に一定の結びつきがあると考えられるからである。

しかし、父母がいわゆる内縁関係であっても共同生活を営み日本との間に一定の結びつきがあると言い得る場合はあり、法律上の婚姻関係にあるかどうかにより区別することは合理的根拠によるものではなく、合理性がないとして憲法14条1項違反とした。

よって、3条1項の「父母の婚姻」という文言は、内縁関係も含む趣旨と解釈し、「嫡出子」という文言は違憲として一部無効であるとした。

内縁すらなかったとしたらどうなるか。→控訴審判決では、内縁があれば結び付きがあるとした。それ以外の結び付きのあり方は立法論の領域となる。

東京高判H18.2.28 国籍法違憲訴訟 控訴審

違憲審査のあり方について

(法3条1項を無効とすることについて)

「仮に同項の規定が無効であるとすれば、父母の婚姻及び父による認知要件を具備した子において日本の国籍を取得する規定の効力が失われるだけであって、そのことから、被控訴人の主張するような出生した後に父から認知を受けたが、父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子が日本の国籍を取得する制度が創設されるわけではない」。

しかも、法第3条第1項の規定が無効であるならば、同項所定の要件を具備した子であっても日本の国籍を取得することができなくなるから、「同項所定の要件を具備する子が日本の国籍を取得することができるのに対して、出生した後に父から認知を受けたが、父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子が日本の国籍を取得できないことが不合理であるとの主張を維持することができなくなる

(法解釈の手法について)

類推適用、拡張解釈が「相当な場合があり得ることは否定することができない」が、「そのような場合においても、立法者の意思を離れてこれを行うことは許されない」。

   ↓

「被控訴人の法第3条第1項の違憲無効の主張を、同項のうち「婚姻」ないし「嫡出子」を要件とする部分だけを違憲無効とし、もって同項を上記のように拡張ないし類推解釈する」というのは、「結局、裁判所に類推解釈ないしは拡張解釈の名の下に国籍法に定めのない国籍取得の要件の創設を求めるものにほかならないというべきところ、裁判所がこのような国会の本来的な機能である立法作用を行うことは許されないものというほかない」

本判決は、違憲審査権の行使をかなり抑制している。違憲審査権が裁判所に与えられた趣旨は、違憲の法律によりその権利利益を侵害されている者の救済を図ることにある。ある程度の積極的な態度が必要なのではないか。

フォローする