憲法学レジュメ~積極的権利の性質と審査手法

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積極的権利の性質

(参照:小山「憲法上の権利の作法」p113~131)

「積極的権利」とは、国家に作為を求める権利の総称。
作為請求権ともいえる。

未確定性

手段・仕組みの未確定性(手段選択の余地)

作為請求権という権利の構造として、この作為請求権の履行の手段は、通常、複数の手段が存在するから、手段の選択は国の裁量に委ねられる手段・仕組みの未確定性を有しているのである。

つまり、手段選択については、国家(第一次的には立法者)は、選び得る中からどれを選択しても良いし、また、複数の手段を同時に選択しても良い。ここで重要となるのは、憲法が要請する最小限度を下回らない保護を提供しているかである(作為義務違反がないかどうか)。

たとえば、国は、要保護者に対して金銭を給付しても良いし、住宅その他現物の給付によって「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しても良い。

内容・程度の未確定性

防御権(≒自由権)は、制限が必要最小限度であることを求めるが、通常、積極的権利は、可能な限り最大限の作為を求めるというものではない

たとえば、憲法25条1項が保障するのは、「健康で文化的な最低限度の生活」であり、もっとも快適な生活ではない。さらに、何が健康で文化的な最低限度の生活なのかについても評価の余地が生じる

したがって、内容や程度に未確定の要素が生じる。

未確定性の程度

以上の手段・仕組みの未確定性と内容・程度の未確定性とをあわせて、二重の未確定性という。この二重の未確定性があるために、積極的権利は抽象的権利だといわれる

そして、積極的権利の特徴は、基本権と法律(国の関与)が対抗関係ではなく、親和的関係にたつということにある。 法律は、憲法の次元では未確定な権利の内容および実現の手段を具体化し、権利の実現に奉仕するものである。

もっとも、未確定性の程度は、権利ごとに様々であり、それぞれの権利ごとに判断されなければならない。

郵便法違憲判決にみられるように、国家賠償請求権(17条)は確定性が高い。同じことは、憲法29条3項の損失補償請求権にも当てはまる。

さらに、生存権のように、それ自体としては確定性が低いものであっても、立法者が第一次的判断権を行使した後には、未確定性が縮減される場合がある。

したがって、抽象的権利であるというだけで、特定の違憲審査の在り方が一義的に定まるものではない。

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積極的権利の審査

積極的権利が作為の請求であることに対応して、審査の関心は、憲法が命じる作為義務の下限を充足することに向けられる。その審査は、立法裁量を前提として緩やかなものとなるのが基本である。

もっとも、作為義務の内容が憲法の次元で高い確定性を有するものや、憲法の次元では未確定であっても、裁量の余地が縮減する場合がある。

下限の統制

積極的権利に対する違反は、国家の不作為(完全な不作為および作為義務の不十分な履行)によって生じる。

そこで、積極的権利の審査は、基本的には、作為義務の内容は何であるかの確認と、国による作為義務履行の程度(完全な不作為の場合を含む)が憲法の要請する最低限度を下回っていないかの確認という2段階で行われる。

そして、二重の未確定性がある限り、審査は、基本的には明白な違反のみが違憲になるという緩やかな基準で行われる

広い裁量を原則として伴う国家の作為義務が具体的な作為義務へと収縮する例外的な場合を除けば、審査されるのは立法者が選択した手段および給付水準が明らかに憲法の要請を下回っていないかどうかであり、立法者が選択した手段が最適かどうかではない。

堀木訴訟判決は、「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのように立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量に委ねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない」と説示する。
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確定性が高い場合

二重の未確定性は、積極的権利の裁判的救済を困難とする要因になっている。

しかし、反対に、確定性の高いものであれば、(具体性が低いものであっても法律による具体化が行われた場合を含む)具体的文脈に依存した形で「原則-例外関係」が観念できる場合がある。

郵便法違憲多数意見は、「憲法17条は、……と規定し、その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については、法律による具体化を予定している。これは、……国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上、公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって、立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない」と説示している。

※「原則」が存在するため、国賠請求権は確定性が高い。原状回復ができなければ損害の実額を賠償するのが原則であるとすれば、賠償がこれよりも低額にとどまる場合には、実額賠償という原則に対する例外として、必要性・合理性が肯定されなければならないことになる。

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未確定性が縮減される場合

生存権については、憲法が要求する生活の水準についても、その実現についても未確定性が残るため、「原則」を観念することは難しい。しかし、このような権利についても、立法者による一次的判断権の行使を通じて未確定性が縮減する場合がある。

純然たる積極的権利の問題ではないが、最高裁の国籍法違憲判決は、立法府が①血統主義を採用し、また②日本国民を血統上の親として出生した子で日本国籍を生来的に取得しなかった者のうち「わが国との密接な結び付き」がある者には日本国籍を届出により与えるとの判断をすでに行っていることを重視し、出生後に日本国民たる父から認知された外国人を母とする非嫡出子は父母が婚姻しない限り、届出により日本国籍を取得することができないとする国籍法旧3条1項の規定のうち、父母の婚姻という「過剰な要件」の部分だけを違憲とした。
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堀木訴訟で問題となった障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止、牧野訴訟等で問題となった老齢福祉年金の併給制限等もまた、「原則-例外」関係を認めうる局面である。給付を行うことが原則、これを制限することが例外と考えることができるからである。