2017年司法試験公法系第1問採点実感(全文)憲法

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平成29年司法試験の採点実感(公法系科目第1問)

1 総論

・問題文には,検討すべき点について,ヒントとなる記述が多々あるにもかかわらず(例えば,立法経過に関する議論から,妊娠等の自由の制限と収容の点が大きなテーマであることに気付くべきであろう。),これに言及していない答案があった。また,問題文に書かれている前提を誤解していると思われる答案もあった。まずは,問題文をしっかり読んで,その内容を理解することが重要である。
・本問は,マクリーン事件等幾つかの参考となる判例を想起すべき事例であり,これらの判決の趣旨を理解し,その射程を意識しながら本事例について論証しようとする答案は説得的であり,高い評価となった。他方,これらの重要判例がおよそ意識されていないもの,あるいは,本事例の特性を意識した論述とは言い難く,淡白な記述にとどまるものは,低い評価とならざるを得なかった。
・被侵害利益を適切に示さないもの,違憲審査基準を示さないものが散見されるとともに,違憲審査基準を一応示していてもそれを採用する理由が十分でないものが一定程度見られたが,これらを十分に示すことが説得力のある答案の前提であり,より意識した論述を心掛けてほしい。
・原告の主張,国の主張,自己の見解を示すことが求められているが,原告や国の主張として,およそ認め難いものを想定して容易に反論するという論述では,淡白な内容とならざるを得ない。判例・通説の立場からして,極端な,若しくは単純に過ぎる(したがって批判も容易な)主張を前提にして答案を構成するのは適当ではなく(例えば,国の主張として,外国人の人権はおよそ保障されないなど),判例や通説的見解と異なる見解を採用することは差し支えないが,少なくともそれらの存在を前提とした立論をすべきであろう。
・設問1に対する解答を僅か数行にしているものも見られたが,原告の主張としても,理論と事実に関する一定の主張を記載することが求められており,したがって,まず,設問1において,問題となる権利の特定と,その制約の合憲性に関する一定の論述をすることが期待されている。設問2では,国の反論なのか私見なのか判別しにくいものが見られた。
・出題の趣旨にも示したとおり,本問において違憲を主張するとすればその瑕疵は法律にあるのであり,また,問題文に「Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして」と記載されていて,法令違憲を検討すべきことが示されているのに,適用違憲を詳細に論ずるものがあった。繰り返しにはなるが,問題文はしっかり読んでほしい。

2 妊娠等の自由について

・多くの答案で妊娠等の自由が自己決定権として憲法第13条に位置付けられることをおおむね論証できていた。
・外国人の人権享有主体性について全く触れない答案が散見された。マクリーン事件判決を意識したものも,マクリーン事件判決について,単純に権利性質説を説いた部分しか参照できていない答案が多かった。出題の趣旨に示したとおり,本問では,単純な権利性質説の論述では不十分であり,マクリーン事件判決の「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は,右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない。」「在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。」という論理とどのように向き合うのかということが問われている。このことが意識されない答案が予想したより多かったことは遺憾であった。もっとも,この点が意識され,自分なりに論じられている答案は高く評価することができた。
・また,権利性質説に関する論証も不十分なものが少なくなかった。例えば,「妊娠・出産の自由も,権利の性質上外国人にも保障される。」としか記載していないものが見られたが,妊娠・出産の自由がどのような性質の権利なのかを指摘して初めて妊娠・出産の自由が外国人に保障されるという論証になるはずである。
・強制出国によって職業選択の自由又は移動の自由が侵害されるとして論じたものがあった。しかしながら,強制出国を介した不利益を問題とするのではなく,まず,特労法において,妊娠等が強制出国事由とされていることについて,その自由の制約を問題とすべきである。ただし,強制出国を介した利益侵害を問題としつつも,妊娠したことが強制出国事由であることに焦点を当て,実質的に,自己決定権侵害として論じた場合と類似の内容を検討したものについては評価した。
・具体的な検討において,立法目的の検討が不十分なものが多く見られた。妊娠を強制出国事由とすることの目的は,特労法第1条の目的を引用するにとどまるのではなく,それを具体化した,定住を認めない趣旨を徹底することが目的として検討されるべきである。また,目的に関して,社会保障制度への負担についてのみ着目したものが見られたが,外国人を多数受け入れた場合に生じる社会的軋轢も考慮すべき点であろう。
・目的・手段の双方から審査を行うという立場を採る場合,手段審査においては,妊娠・出産が日本への定住につながる可能性があるといえるかどうか,あるとしてもそれが立法を正当化するに足りる関連性を有するかどうかを検討する必要がある。

3 収容について

・収容について,人身の自由という実体的権利の問題と,令状等なくして収容されるという手続的権利の問題とがあることについてきちんと整理された答案は僅かであり,人身の自由と手続的権利の問題が混然一体として論じられて整理されていない答案や,淡白な記述にとどまる答案が多く見られた。
・手続的権利について,川崎民商事件判決や成田新法事件判決を意識した答案も少なからず存在したが,さしたる検討もなく,「収容=逮捕」として,憲法第33条の例外に当たらないから違憲とする答案も見られた。刑事手続を前提とする憲法第33条の逮捕令状主義が行政手続たる本件手続にどのように及び得るのかをより丁寧に論じてほしかった。
・問題文では,特労法における収容の要件,手続が詳細に示されているが,これらを十分に検討せず,単に裁判官によるチェックが欠けるから違憲とするだけの答案も目立った。憲法第31条以下の規定の一般的理解が十分でないと考えられた。
・違憲審査基準を立てて目的手段審査を行うものが散見された。一般論として,行政手続に関し,憲法第31条や第33条への適合性についてこうした判断手法を用いることが妥当かどうかについては余り議論がないと思われるが,必要な要素が考慮されているのであれば,本問では評価できると考えた。もっとも,その際,立法の目的は,特労法第1条に掲げられている一般的な目的ではなく,迅速性等,裁判官の関与を否定することの目的を指摘すべきであろう。
・収容に関する問題を,自己決定権への制約を論じる際にまとめて検討する答案が見られたが,論点の整理が不十分であろう。

4 その他

・例年指摘しているが,誤字(例えば,妊娠を「妊妊」としたり,「娠娠」としたりするものがあったほか,より懸念されることに,幸福追「及」権,収容を「収用」とするもの,主権を「主観」とするものなど,法概念に関わる誤字もあった。)がかなり認められるほか,乱雑な字で書かれて非常に読みづらい答案が相変わらずあった。時間的な制約がある中ではあるが,答案作成の目的は「自分が理解していることを採点者に分かってもらう」ことであるので,それを十分認識してもらいたい。
・外国人の人権享有主体性や自己決定権,適正手続保障等の基本的事項についても,理解の深さが論証の表現に如実に現れる。浅薄な理解に基づく表面的な論述は,確かな理解に基づくそれと比べておのずと評価に差が生じるものであり,基本的な事項の理解に努めることの重要性を改めて指摘しておきたい。

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