2017年司法試験公法系第2問採点実感(全文)行政法

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平成29年司法試験の採点実感(公法系科目第2問)

1 出題の趣旨

別途公表している「出題の趣旨」を参照いただきたい。

2 採点方針

採点に当たり重視していることは,例年と同じく,問題文及び会議録中の指示に従って基本的な事実関係や関係法令の趣旨・構造を正確に分析・検討し,問いに対して的確に答えることができているか,基本的な判例や概念等の正確な理解に基づいて,相応の言及をすることのできる応用能力を有しているか,事案を解決するに当たっての論理的な思考過程を,端的に分かりやすく整理・構成し,本件の具体的事情を踏まえた多面的で説得力のある法律論を展開することができているか,という点である。決して知識の量に重点を置くものではない。

3 答案に求められる水準

⑴ 〔設問1〕⑴

・訴訟類型として非申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法第3条第6項第1号,第37条の2)を選択し,訴訟要件として,①処分の一定性を検討し,②原告適格について,第三者の原告適格の判断枠組みを適切に提示した上で,根拠法令の趣旨・目的,考慮される利益の内容・性質についての一般的な検討及び本件事案に即した検討を行い,③重大な損害について,上記②の考慮される利益の内容・性質と同様の検討を行い,④補充性について,社会福祉法人Aに対する民事上の妨害排除請求の可能性を指摘して検討している答案は,一応の水準に達しているものと判断した。
・これに加えて,上記②の根拠法令の趣旨・目的に関し,監督処分(道路法第71条第1項)の趣旨・目的,及び,違反行為である同法第43条第2号(道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすることの禁止)の趣旨・目的を十分具体的に検討し,上記②の考慮される利益の内容・性質及び上記③の重大な損害に関し,X2の小学校への通学路(距離の増大,交通量の増加)及びXらの緊急避難路としての利用について十分具体的に検討し,上記④に関し,社会福祉法人Aに対する民事上の妨害排除請求の可能性を補充性の要件に関連して十分に論じている答案は,良好な答案と判断した。
・さらに,上記①に関し,本件フェンスの除却に加えて原状回復まで求めることなどが述べられており,上記②に関し,里道の近くに居住する者が当該里道の用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないと判断した最高裁判所昭和62年11月24日判決(集民152号247頁)に言及して適切に論じている答案は,優秀な答案と判断した。

⑵ 〔設問1〕⑵

・道路法第71条第1項第1号及び第43条第2号の規定に即して,要件裁量の有無を検討し,同法第71条第1項第1号所定の監督処分をするかどうか,いかなる監督処分をするかについて,道路管理者の効果裁量が認められていることを指摘した上で,裁量権行使の合理性の検討を具体的に行っている答案は,一応の水準に達しているものと判断した。
・これに加えて,上記の各規定の趣旨を具体的に検討して要件裁量及び効果裁量の有無の検討を行い,具体的な裁量権行使の合理性に関し,Y側が主張する,本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用が乏しいことや,Aが本件市道の路線廃止及び売渡しの相談をしておりいずれ路線廃止が予想されること,Xらにとっての通行上の利益の重要性等の事情を具体的に検討し,行政事件訴訟法第37条の2第5項「行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となる」に該当することを指摘している答案は,良好な答案と判断した。

⑶ 〔設問2〕⑴

・処分性の定義を適切に提示した上で,道路区域の決定及び供用開始の法的効果についての検討を行い,路線廃止はこれらの行為が道路敷地所有者に対して有する法的効果を解除するという法的効果があることについて検討し,路線廃止の道路通行者の法的地位に対する影響を検討している答案は,一応の水準に達しているものと判断した。
・上記の区域決定・供用開始の法的効果に関し,道路区域が決定されると,道路敷地の所有者の法的地位に関し,道路管理者による権原取得前でも,土地の形質変更や工作物の新築等につき,道路管理者の許可を要することとなること(道路法第91条),道路が供用開始されれば,道路敷地の所有者に対して,私権が行使できなくなる法的効果があること(同法第4条)を具体的に論じ,加えて,路線廃止の道路通行者の法的地位に対する影響に関し,当該市道を生活上不可欠な道路として利用していた通行者の生活に著しい支障が生ずる場合があることについて検討している答案は,良好な答案と判断した。
・さらに,本件市道を生活上不可欠な道路として利用していた通行者の生活に著しい支障が生ずる場合があるという観点から,前記⑴の最高裁昭和62年判決に言及している答案は,優秀な答案と判断した。

⑷ 〔設問2〕⑵

・「一般交通の用に供する必要がなくなった」という道路法第10条第1項の要件を検討し,これに関する要件裁量の有無及び廃止することについての効果裁量の有無を検討した上で,本件における裁量権の逸脱濫用の有無に関し,調査不足及び考慮事項の不足について具体的な検討を行い,更に本件内部基準の法的性質(裁量基準)についての見解を示し,その合理性と基準から逸脱していることについての合理的理由の有無を検討している答案は,一応の水準に達しているものと判断した。
・これに加えて,上記の道路法第10条第1項の要件に関し,現に通行者による利用が存在し,道路としての機能が喪失していない以上は,同条の要件を満たさないといえるか否かについて具体的に検討し,同条項の趣旨を具体的に考慮して上記の要件裁量及び効果裁量の有無を検討し,調査不足がなぜ裁量権の逸脱濫用を導き得るのかを的確に説明し,上記の考慮事項の不足について,Xらの生活上の不利益,本件市道の利用状況,付近の代替的交通路の存在を具体的に検討し,裁量基準としての本件内部基準の合理性を十分具体的に検討している答案は,良好な答案と判断した。
・さらに,本件内部基準の合理性に関し,その趣旨が,同意を得る過程で,利害関係のある者の意見を聴取し,道路の使用実態等に関し,より的確な認定に資する資料を幅広く収集するところにあると解されることを検討している答案は,優秀な答案と判断した。

4 採点実感

以下は,考査委員から寄せられた主要な意見をまとめたものである。

⑴ 全体的印象

・例年繰り返し指摘し,また強く改善を求め続けているところであるが,相変わらず判読困難な答案が多数あった。極端に小さい字,極端な癖字,雑に書き殴った字で書かれた答案が少なくなく,中には「適法」か「違法」か判読できないもの,「…である」か「…でない」か判読できないものすらあった。第三者が読むものである以上,読み手を意識した答案作成を心掛けることは当然であり,採点者が努力を払っても解読できない文字は,何も書かれていないに等しいことを肝に銘じ,丁寧に判読できるような文字を書いていただきたい。また,癖字であるとの自覚がある者は,大きめの文字で空間を空けて書くことを推奨したい。
・脱字,平仮名を多用しすぎる答案も散見され,誤字(例えば,検当する,概当性,多事考慮,通交する等)も少なくなかった。- 3 -・問題文では,Xらの相談を受けた弁護士の立場に立って論じることが求められているにもかかわらず,各論点の検討において,問題文に記されているY側の主張を単に書き写してXに不利な結論を導いたり,ほとんど説得力がないYやAの立場に立つ議論を案出したり,Xの側に有利となるべき事情を全く無視して議論したりする答案が相当数見られた。原告代理人としては,もちろん訴訟の客観的な見通しを示すことは重要であるが,まずは依頼人の事情と主張に真摯に耳を傾けることこそが,実務家としての出発点であろう。
・例年指摘しているが,条文の引用が不正確又は誤っている答案が多く見られた。行政事件訴訟法や道路法の条文を引用していない答案も見られた。
・冗長で文意が分かりにくいものなど,法律論の組立てという以前に,一般的な文章構成能力自体に疑問を抱かざるを得ない答案が少なからず見られた。
・どの論点を論じているのか段落の最後まで読まないと分からない答案や,どの小問についての解答かが明示されていない答案が見られた。
・結論を提示するだけで,理由付けがほとんどない答案,問題文中の事実関係や関係法令の規定を引き写したにとどまり,法的な考察がされていない答案が少なからず見られた。論理の展開とその根拠を丁寧に示さなければ説得力のある答案にはならない。
・法律解釈による規範の定立と問題文等からの丁寧な事実の拾い出しによる当てはめを行うという基本ができていない答案が少なからず見られた。
・問題文等から離れて一般論について相当の分量の論述をしている答案(設問1⑴において処分性の判断基準を長々と論述するものなど)が少なからず見られた。問題文等と有機的に関連した記載でなければ無益な記載であり,問題文等に即した応用能力がないことを露呈することになるので,注意しておきたい。
・一般的な規範については一応記載されているが(例えば,原告適格や処分性の判断基準),それに対する当てはめがなされていない答案や,あるいは,提示した一般的な規範とは全く別個の根拠で結論を出している答案が見受けられた。これでは一般的な規範が何のために記載されているのか不明であるし,その内容を正確に理解していないのではないかという疑念を生じさせるものである。
・問題文の指示を十分に把握せずに答案作成をしているのではないかと思われる答案も少なからず見られた。例えば,設問2⑴において,路線の廃止に係る処分性を検討するに当たり,その前提として道路の区域の決定及び供用の開始の法的効果を論ずべきことが会議録に明記されているにもかかわらず,その検討を行っていない答案が少なからず見受けられた。
・小問が4問あったことも一因と思われるが,時間が足りず,最後まで書ききれていない答案が相当数あり,時間配分にも気を配る必要がある。

⑵ 〔設問1〕⑴

・訴訟類型の選択及び処分の一定性に関しては,ほとんどの答案が,提起すべき訴訟類型として,非申請型義務付け訴訟を正しく選択していた。ただし,道路管理者Y市長が行うべき「一定の処分」について,「本件フェンスの撤去を義務付ける」と述べ,処分と事実行為の区別に関する理解が不十分と思われる答案や,誰に何を命ずるのかが明確でない答案が一定数見られた。また,ごく少数ではあるが,路線廃止に対する差止訴訟を誤って選択したものもあった。
・非申請型義務付け訴訟の訴訟要件は行政事件訴訟法第37条の2第1項及び第2項に尽きているとの誤解からか,原告適格の有無について全く触れていない答案が一定数見られた。
・原告適格の判断基準に関しては,多くの答案が行政事件訴訟法第9条第2項や最高裁判例の一般的な判断基準を示すことができていた。
・原告適格の有無の判断における法令の趣旨・目的の検討については,道路法第71条第1項及び同法第43条第2号の規定の趣旨・目的の分析が行われておらず,単に被侵害利益の重要性等のみを示して原告適格の有無を判断している答案が少なからず見られた。また,道路法の条文を挙げていても第1条の目的規定のみという答案も少なくなかった。さらに,単に上記の条文を列挙するのみで,何らの媒介的論理もなく,個別的利益としての保護に関する結論を導いている答案も多く見られた。
・原告適格の有無の判断における考慮される利益の内容・性質に関しては,そもそもこれを検討していない答案が目立った。また,これを検討するとしても,単に問題文に現れた(ア)ないし(ウ)の事情を引用するのみで十分な分析が加えられていない答案が多く見られた。特に,Xらが本件市道の近隣に居住していることは,原告適格を肯定する方向に働く事情になる一方で,迂回を余儀なくされることが生活上どの程度の損害に結び付くのかという検討を要するものと解されるところ,この点を指摘する答案は少数にとどまった。市道に設置された障害物の除却命令をすることの義務付け訴訟という事案の性質や障害物の設置により侵害されている利益が通行利益であるという利益の性質上,原告適格が認められる第三者の範囲がそれほど広いものではないという点を指摘する答案はほとんど見られなかった。
・重大な損害の要件に関しては,本案で検討すべきと思われる内容を当該訴訟要件において検討している答案が一定数見られた。また,ごく少数ではあるが,行政事件訴訟法第37条の2第2項に定める考慮事項の一つである「損害の回復の困難の程度」について,そこで検討されるべき内容を誤解している答案があった。さらに,上記の原告適格の有無の判断において考慮される利益の内容・性質と同様,単に問題文に現れた(ア)ないし(ウ)の事情を引用するのみで十分な分析が加えられていない答案が目立った。
・補充性の要件に関しては,民事訴訟(Aに対する妨害排除請求)の可能性を,この要件との関連において丁寧に論じている答案が極端に少なかった。また,会議録における指示は,当該民事訴訟の可能性が訴訟要件の充足の有無に影響を及ぼすか否かの検討を求めるものであったにもかかわらず,上記民事訴訟を提起して勝訴することができるか否かを検討する答案が少数ながら見られた。さらに,民事訴訟と異なり,義務付け判決には第三者効が認められることを根拠としている答案が少数ながら見られた(法改正に当たって様々な議論があったのは事実だが,少なくとも現在の行政事件訴訟法上は,義務付け判決に第三者効は準用されていない。)。

⑶ 〔設問1〕⑵

・要件裁量及び効果裁量については,多くの答案が論じていたが,両者の区別を十分に意識しない答案が少なからず見られた。
・裁量の有無を検討する答案でも,単に法律の文言のみに依拠して判断している答案が多く見られた。裁量が肯定される実質的な理由についても併せて検討することが重要である。
・効果裁量については,道路法第43条第2号違反該当性と同法第71条第1項の監督処分との関係の理解が不十分と思われる答案が一定数見られた。前者が認定されて初めて後者に関する効果裁量が問題になることを理解した上での論述が望まれる。
・道路法第71条第1項の命令違反に対して罰則が規定されていること(同法第104条第4号)を根拠に監督処分を発動しない効果裁量が存在しないと論じた答案が一定数見られたが,そのような推論に説得力があるか,慎重な検討が求められよう。
・問題文にはY市が監督処分をしなかった判断根拠が列挙されており,それらの吟味を行うことが求められていたところ,それには触れずに,国家賠償法における規制権限不行使の合理性の判断と同様の検討を行った答案が相当数見られた。また,上記の判断根拠についても,単に問題文に記載された事実を書き写すだけの答案も少なくなかった。これらがなぜ,どのように考慮されるべきかを各考慮事項ごとに丁寧に分析するのでなければ,法的論証とは言い難い。

⑷ 〔設問2〕⑴

・処分性の定義は,ほとんどの答案が適切に論じていたが,公権力性についての当てはめの検討(路線廃止が道路管理者の道路法に基づく管理権限行使としてされたこと)を行っていない答案が多く見られた。
・「道路の区域の決定及び供用開始や路線の廃止が道路敷地の所有者の法的地位に与える影響」について,関係する規定(道路法第91条第1項・第2項,第4条)を指摘した上で正確に論じることができていない答案が少なくなかった。道路法の条文がほとんど初見のためか,誤読や読み落としが少なくなく,特に,区域決定・供用開始それぞれの法的効果が十分区別されていない答案が多く見られた。また,ごく少数ではあるが,会議録中の弁護士Dの発言にあるように,本件市道の敷地の所有権がY市にあることを理由として処分性を否定した答案も見られた。
・敷地所有者の法的地位はほぼ全ての答案で論じられていたが,通行者の法的地位については,会議録の誘導があったにもかかわらず,検討されていない答案が少なからず見られた。通行者の法的地位について論じるとしても,単に通行できなくなる効果がある又は通行権を失うとするにとどまるものが圧倒的に多く,通行者にとって本件道路が日常不可欠なものであるか否かや通行できなくなることによる日常生活上の影響の程度について検討している答案はごく少数にとどまった。単に通行者というだけで通行し得る法的地位が保障されているといえるのか,当該道路の通行を日常生活上不可欠とする者等に対してしか,通行し得る法的地位は保障されていないのではないかについても考察することが期待される。
・路線廃止が,道路敷地所有者の法的地位に対する制限・禁止を解除する法的効果を有することについては,おおむねよく記載されていた。

⑸ 〔設問2〕⑵

・道路法第10条第1項の「一般交通の用に供する必要がなくなった」という要件について,現に通行者による利用が存在して道路としての機能が喪失していない以上は同条の要件を満たさないといえるのか,それとも,現に利用が存在しても諸般の事情に鑑みて「必要がなくなった」として廃止できるのかという点を分析した答案は少数にとどまった。
・道路法第10条第1項の判断における要件裁量・効果裁量の有無について,両者の区別(効果裁量は,同項の要件が充足されている場合であっても裁量権を認めることができるか否かという問題である。)ができていない答案が少なからず見られた。また,裁量が肯定される実質的な理由を検討することなく,法律の文言のみから裁量の有無を論じる答案も多く見られた。特に,同項の「認める」という文言のみから要件裁量が認められるとの解釈が説得力を有するか否かについては,慎重な検討を要しよう。
・本問における裁量権の逸脱濫用には,調査不足と考慮事項の不足の問題及び内部基準からの逸脱の問題が含まれるが,両者を共に適切に論じている答案は少なく,そのいずれかを十分に論じつつも他方の論述がなく又は粗雑なものが多数見られた。
・調査不足と考慮事項の不足の問題については,本件フェンスにより本件市道が閉鎖された状況の下で調査をしていることを指摘する答案は少なく,それがなぜ裁量権の逸脱濫用という評価を受けるのかについて論じている答案は更に少数にとどまった。調査不足であることについて,手続的な瑕疵という側面と,実体的な考慮要素の不足という側面の区別がついていないと見受けられる答案も散見された。
・裁量権の逸脱濫用の有無については,どのような事実がどのように具体的に考慮されたのか,考慮すべきなのに考慮しなかった事実はあるか,その上で考慮した事実を踏まえた判断は合理的か否かという観点からの検討が求められるところ,このような考慮事項の検討を十分に行っている答案は極端に少なかった。
・本件内部基準の性格について,処分基準,審査基準などとする答案が少なからず見られた。市道の路線の廃止は,「特定の者を名あて人と」するものではないため,行政手続法上の不利益処分(同法第2条第4号)に当たらないことに留意すべきである。・本件内部基準の法的性格を整理していないためか,同基準の合理性につき検討することなく,同基準に反すると直ちに違法とするという答案や,内部基準であっても公表されることにより- 6 -信義則上拘束を受けるといった表面的な分析にとどまるものが大多数であった。本件内部基準の拘束力の検討においては,前提として,道路法第10条第1項の定める路線の廃止の要件に照らし,内部基準の合理性を検討すべきであるが,この点の検討を十分に行った答案はほとんど見られなかった。また,本件内部基準自体の合理性の検討と当該基準から逸脱することの合理性の検討とを混同する答案が一定数見られた。

5 今後の法科大学院教育に求めるもの

・本年の出題も,昨年と同様に,書くべき論点が問題文及び議事録において丁寧に明示されていたこともあり,論ずべき問題点の検討・把握という点では,比較的平易な問題であった。それだけに,基本的な判例や概念等についての正確な理解に基づき,本件事案に即した適切な見解を導く応用能力があるか,特に問題文において指摘されている事案固有の考慮要素(原告適格や重大な損害を基礎付ける個別的事情,裁量権の逸脱濫用の判断の基礎となる事情等)についての法的評価を適切に行う能力,多くの受験生にとってなじみのない道路法の具体的な規定において考慮されている様々な利益・事情等を読み解く能力があるか,これらの問題点につき論理的な思考に基づき説得的な論述ができているかによって,評価に大きな差が出る問題であったといえる。
・行政手続法上の不利益処分の概念を正しく理解できていないため,ウェブサイトの記載を処分基準と誤解する答案が目立ったことなどに鑑みると,法科大学院においては,行政法学(行政法総論)の基礎的な概念・知識がおろそかにならないような教育を期待したい。
・法科大学院には,単に条文上の要件・効果といった要素の抽出,法的概念の定義や最高裁判例の判断基準の記憶だけに終始することなく,様々な視点からこれらの要素を分析し,類型化するなどの訓練を通じて,試験などによって与えられた命題に対し,適切な見解を導き出すことができる能力を習得させるという教育にも,より一層力を注いでもらいたい。本年も,論点単位で覚えてきた論証を吐き出すだけで具体的な事案に即した論述が十分でない答案,条文等を羅列するのみで論理的思考過程を示すことなく結論を導く答案のほか,提示した一般的な規範とは全く別個の根拠で結論を出している答案すら散見されたところであり,これでは一般的な規範が何のために記載されているのか,そもそもその内容を正確に理解しているのかについて疑念を抱かざるを得ない。法律実務家を志す以上,論述のスタートは飽くまで条文であり,そこから法律解釈をして規範を定立し,具体的事実を当てはめるというプロセスが基本であるが,そのような基本さえできていない答案が少なからず見られた。上記のような論理的な思考過程の訓練の積み重ねを,法律実務家となるための能力養成として法科大学院に期待したい。
・各小問に即して,上記のような観点からの能力の不十分さを感じさせる答案として特に目に付いたものとしては,原告適格,重大な損害,裁量権の逸脱濫用の判断に当たり,単に問題文に記載された事実を書き写すだけで,これを,問題文に指定された立場から法的に評価していない答案(設問1⑴,1⑵,2⑵),裁量が肯定される実質的な理由を検討することなく,単に法律の文言のみによって判断する答案(設問1⑵,2⑵),法的論拠を全く示すことなく,突如として本件内部基準の法的性質やその合理性の有無についての結論を述べる答案(設問2⑵)等が挙げられる。
・法律実務家は,裁判官,検察官,弁護士のいずれにせよ,自己の見解とは異なる立場に立っても柔軟にその立場に即した法的検討,論述を展開し得る能力を身に付けることが期待されているものである。問題文に,Xらの依頼を受けた弁護士の立場で解答することを求める指示があるにもかかわらず,Xらの主張は認められないとの結論を導く答案や,Y側の主張を十分に理解した上でこれに法的評価を加えようという姿勢が見られない答案,ほとんど説得力を感じさせない主張の展開を試みる答案などが少なからず見られたのは,法科大学院教育又は学生の学習態度が,前記のような条文解釈に関する学説・判例の暗記に終始してしまっているところに一因があるのではないかとの懸念を生じさせるものである。- 7 -・前記4⑴に記載したとおり,法律的な文章という以前に,日本語の論述能力が劣っている答案も相当数見られた。法律実務家である裁判官,検察官,弁護士のいずれも文章を書くことを基本とする仕事である。受験対策のための授業になってはならないとはいえ,法科大学院においても,論述能力を十分に指導する必要があると思われる。
・法科大学院教育において,一般的な判断基準や主要な最高裁の判例を学習し覚えることが重要であることはいうまでもないが,更に進んで,これらの基準を具体的な事案に当てはめるとどのようになるかを学ぶ機会をより一層増やすことが求められているのではないか。

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