2017年司法試験公法系論文式問題(資料含め全文)

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平成29年司法試験公法系論文

論文式試験問題集[公法系科目第1問]

[公法系科目]〔第1問〕(配点:100)

20**年,少子高齢化の影響で日本では労働力の不足が深刻化し,経済成長にとって大きな足かせとなっていた。日本では,それまで外国人のいわゆる非熟練労働者の受入れは認められていなかったが,政府は,労働力不足の深刻化を受け,労働力確保の必要性が特に高い農業と製造業を対象として,外国人非熟練労働者を受け入れる方針を決めた。受入れに際しては,十分な数の労働者を迅速かつ円滑に確保するとともに,適性のある労働者についてはある程度長期間にわたり雇用を継続できるようにすることが望まれた。他方,政府の上記方針決定に対し,野党からだけではなく与党からも,欧米諸国で移民を大規模に受け入れた結果として社会的・政治的な軋轢が生じた経験を参照した慎重論が強く主張された。そのため,特に労働力確保が必要な区域として受入れの対象区域を指定し,受け入れた外国人はその指定区域内でのみ就労できることとした上,いずれ必ず帰国し,日本への長期にわたる定住を認めないこと,さらに,受け入れた外国人に問題がある場合には迅速に出国させることが求められた。このように,外国人非熟練労働者の受入れについては,現行の出入国管理制度とは大幅に異なる枠組みが必要とされたことから,政府は,「農業及び製造業に従事する特定労務外国人の受入れに関する法律」(以下「特労法」又は「法」という。)を制定して外国人非熟練労働者のみに適用される本邦滞在制度(以下「新制度」という。)を創設し,新制度の下で受け入れる外国人については,出入国及び在留に関して,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)を適用しないこととした。新制度の概要は以下のとおりである(特労法の関連条文は【参考資料】のとおり。)。

・本邦において,熟練した技能や専門的知識を要しない特定の農業及び製造業の業務(以下「特定労務」という。)への就労を希望する,一定の条件を満たした外国人は,申請により,特定労務に従事する者として認証を受けることができる。
・特定労務外国人は,入管法上の在留資格を得ることなく本邦に入国し,法務大臣が指定する地域(基本的に市区町村を単位とする。)内で特定労務に就労することができる。
・滞在期間は3年とし,更新可能とする。ただし,滞在が長期間にわたったとしても,永住や帰化は認めない。
・特定労務外国人については,新制度の趣旨・目的を達成するため,滞在中の妊娠・出産を禁止するなど,本邦に滞在するに当たっての特別な禁止行為を定める(法第15条)。
・新制度の運用のため,滞在の認証に係る審査や強制出国についての審査及び強制出国命令書の発付等を行う行政官として,特定労務外国人審査官(以下「審査官」という。)を置き,新制度により滞在する外国人の違反事件の調査や,強制出国の執行等を行う行政官として,特定労務外国人警備官(以下「警備官」という。)を置く。審査官は,外国人の出入国ないし在留管理等の業務に10年以上従事した経歴があり,一定の試験に合格した者から任用する。審査官となった者は,警備官の行う業務には携わらない。
・警備官は,上記の禁止行為を行ったことが疑われる者(以下「嫌疑者」という。)を覚知したときには調査を開始し,その結果,禁止行為を行ったと疑うに足りる相当な理由があるときは,裁判官の発する令状や,行政官の事前審査に基づく収容令書など,身柄を拘束する者とは別の立場の者が強制処分のために発する書面を要しないで,嫌疑者を収容することができる。
・警備官は,嫌疑者を収容するときは,違反が疑われる事実を告知し,収容後速やかに弁解を聴取する。警備官は,収容のために身柄を拘束したときから48時間以内に,審査官に,調書及び証拠物を送付するとともに,当該嫌疑者の収容を報告しなければならない。
・審査官は,警備官から報告を受けた場合,速やかに当該嫌疑者による禁止行為の存否について審査を開始し,その存在を確認した場合には,同人を強制出国とする。

立法過程では,滞在中の妊娠・出産を認めないのは女性の自己決定権に対する制約として厳し過ぎるのではないかなど,禁止行為が厳格に過ぎるのではないかとの意見のほか,裁判官の令状等を得ることもなく,警備官限りの判断で,直ちに外国人の身柄を拘束することは手続的保障の観点から問題ではないかとの疑問が呈された。しかし,日本への長期にわたる定住を認めないという趣旨を徹底する必要性や,外国人被扶養者の増加が我が国の社会保障制度や保育,教育,医療サービス等に及ぼす影響への懸念から,この程度の制約はやむを得ないとの意見が大勢を占めるに至った。また,収容の要件が限定され,収容後に一定の手続保障が与えられていることのほか,労働力確保の要請から入管法に比して緩やかな要件で入国を認める以上,受け入れた外国人に問題がある場合には迅速に出国させることにより我が国の秩序を守り国民の安心を得る必要があること,更には外国人の入国・滞在の可否は国家の主権的判断に属するという原則等が強調され,結局,特労法が制定された。
A国籍の女性Bは新制度に基づいて来日し,機械部品を製造する工場で特定労務に従事していた。Bは,同じく新制度に基づいて入国し,同じ工場に勤務していたA国籍男性Cと親しくなり,しばらくして妊娠した。Bは懐妊後も引き続き工場で働いていたが,Bの体型の変化に気付いた雇用主がBの妊娠について通報した。これを受けて,警備官が早速調査を開始したところ,Bが産婦人科で受診した事実も確認された。このため,警備官は,Bが妊娠しているとの疑いを強め,法第18条第1項に基づきBを拘束して出国準備センターに収容した。警備官は,収容に際し,法第18条第2項に基づき,Bに対し,滞在中に妊娠し,法第15条第8号の禁止行為に該当するため収容する旨口頭で告げた。また,警備官が,法第18条第2項に基づき,収容後速やかにBから弁解を聴取したところ,Bは,「Cとの間の子を妊娠しているのは間違いない。ただ,滞在中に妊娠することを禁じられていると知っていたので,望んで妊娠したわけではない。この先日本に定住するつもりはなく,日本である程度お金を稼いだらA国に戻りたいとの気持ちは変わらないが,Cを愛しているので今は出産したい。」旨申し立てた。さらに,警備官から報告を受けた審査官は,審査を行った結果,Bの妊娠事実を認定し,強制出国命令書を発付した。
Bは,間もなくA国に送り返された。Bは,妊娠したことを理由にいきなり収容されて帰国させられたことが納得できず,日本政府を訴えたいと考え,引き続き日本にいるCに相談した。Bから相談を受けたCが弁護士甲に相談したところ,甲は,Bの委任を受けて,Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして,国家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。

〔設問1〕
あなたが弁護士甲であるとして,上記の国家賠償請求訴訟においてどのような憲法上の主張を行うかを述べなさい。なお,憲法第14条違反については論じなくてもよい。

〔設問2〕
〔設問1〕で述べられた甲の主張に対する国の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。

【参考資料】農業及び製造業に従事する特定労務外国人の受入れに関する法律(抄)

(目的)
第1条 この法律は,我が国の農業及び製造業に必要な労働力の確保に支障が生じつつあることに鑑み,我が国において就労しようとする特定労務外国人の受入れに関して必要な措置を定めることにより,我が国の文化や秩序との調和を図りつつ,特定労務における労働力の円滑な供給を実現し,もって国民生活の安定及び社会経済の発展に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律で,「特定労務」とは,農業又は製造業の業務のうち,その習得に相当の期間を要する熟練した技能や専門的知識を要しないものとして,法務大臣が指定したものをいう。
(認証の付与及び認証の効果)
第4条 法務大臣は,以下の各号を満たす外国人の申請により,当該外国人に本邦において特定労務に従事する者として認証を付与することができる。
一 申請時点で年齢が満20歳以上45歳未満であること
二 心身ともに健全であること
三 本邦において特定労務への就労を希望していること
四 本邦への帰化又は永住を希望しないこと
五 過去に第15条各号のいずれかに該当して本邦からの出国を強制されたことがないこと
六~八(略)
2 前項の認証を受けた外国人(以下「特定労務外国人」という。)は,出入国管理及び難民認定法(昭和26年10月4日政令第319号。以下「入管法」という。)の規定にかかわらず,本邦に入国し,滞在することができる。
3 特定労務外国人は,法務大臣が告示により指定する特別区域内において,特定労務に従事することができる。
4 特定労務外国人の認証は,認証を受けた日から3年を経過した時又は本邦を出国した時のいずれか早い時に,その効力を失う。ただし,特定労務外国人は,申請により認証期間の更新を受けることができる。
5 特定労務外国人については,別段の定めがない限り,入管法の規定は適用しない。
(認証の申請に必要な書類)
第5条 外国人は,特定労務外国人の認証の申請に際し,次に掲げる書類を提出しなければならない。
一~四(略)
五 第15条各号に掲げる事項を理解した上で同事由に該当する行為をしない旨を誓約する書面
(禁止行為)
第15条 特定労務外国人は,次に掲げる行為をしてはならない。
一~五(略)
六 正当な理由なく,特定労務を継続して1月以上行わないで滞在すること
七 本邦内において配偶者又は子(日本国民及び入管法上の在留資格を有する者を除く。)を扶養すること
八 本邦滞在中に妊娠し又は出産すること
(収容)
第18条 特定労務外国人警備官(以下「警備官」という。)は,特定労務外国人について第15条各号に該当する事実があると疑うに足りる相当な理由がある場合には,当該特定労務外国人(以下「嫌疑者」という。)を収容することができる。
2 前項の規定によって収容するときは,警備官は,嫌疑者に対し,収容の理由を口頭で告知し,収容後速やかにその弁解を聴取しなければならない。
3 第1項の規定によって収容する場所は,出国準備センターとする。
4 警備官は,第1項の規定により嫌疑者を収容したときは,嫌疑者の身体を拘束した時から48時間以内に,特定労務外国人審査官(以下「審査官」という。)に,調書及び証拠物を送付し,当該嫌疑者の収容を報告しなければならない。
5 第1項の規定による収容は,14日を超えてはならない。
(収容後の審査官による審査)
第19条 審査官は,前条第4項の規定により嫌疑者の収容に関する報告を受けたときは,速やかに審査を開始し,第15条各号に該当する事実の有無を確認しなければならない。
2 審査官が,審査の結果,嫌疑者に第15条各号に該当する事実がない又は当該事実の存否が明らかでないと認定したときは,警備官は,直ちにその者を放免しなければならない。
3 審査官は,審査の結果,嫌疑者に第15条各号に該当する事実が存在すると認定したときは,速やかに強制出国命令書を発付しなければならない。
4 前条第5項の規定にかかわらず,前項の強制出国命令書が発付されたときは,出国の時まで前条第1項に基づく収容を継続することができる。
(強制出国命令書の執行)
第23条 強制出国命令書は,警備官が執行する。
2 警備官は,強制出国命令書を執行するときは,強制出国命令を受ける者に強制出国命令書又はその写しを示して,速やかにその者の国籍又は市民権の属する国に出国させなければならない。

論文式試験問題集[公法系科目第2問]

[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕⑴,〔設問2〕⑵の配点割合は,35:20:20:25〕)

Y市に所在し,社会福祉法人Aが運営する保育園(以下「本件保育園」という。)の敷地(南北約200メートル,東西約100メートルのほぼ長方形)は,その西側境界線の全部が,幅員約1メートル,全長約200メートルの南北方向に通る市道(以下「本件市道」という。)に接している。本件市道は,その北端及び南端(それぞれ本件保育園の敷地の北西端及び南西端に接する部分)で,それぞれ東西方向に通る別の公道に接続している。本件市道は,古くからその敷地をY市が所有し,市道として道路法第8条第1項に基づく路線の認定を受けた道路(以下「認定道路」という。)であるが,幅員が狭いため,歩行者,自転車及び原動機付自転車の通行は可能であるものの,普通乗用自動車の通行はできない。
本件市道を挟んで本件保育園の敷地と向かい合う位置には,Aが所有する畑(以下「本件畑」という。)があるほか,数戸の住宅が立ち並んでいる。これらの本件畑及び住宅の敷地は,いずれも,その東側で本件市道に接し,その西側で,南北方向に通る幅員5メートルの別の認定道路である市道(B通り)に接している。
本件保育園においては,保育活動の一環として,本件畑が園児の農業体験等に頻繁に利用されており,本件市道も,農業体験等の際に園児が自由に横断するなど,本件保育園の敷地及び本件畑と事実上一体的に利用されていた。そのため,本件市道を通行する原動機付自転車が園児と接触しかける事件が年数回発生しており,保護者らもAに対し園児の安全確保を申し入れることがしばしばあった。このような状況の下で,園児が本件市道を通行する原動機付自転車に接触して負傷する事故が実際に発生したことから,Aは,園児の安全を確保するための緊急措置として,本件市道の北端と南端に簡易フェンス(以下「本件フェンス」という。)を設置し,一般通行者が本件市道に立ち入ることができないようにした。同時にAは,抜本的解決のためには本件市道を買い取るしかないと考え,本件市道を管理するY市との間で,本件市道の路線の廃止及び売渡しについて事前相談を開始した。
Y市長は,Aからの相談の内容を踏まえ,(ア)本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しいと思われること,(イ)現に本件市道上で園児と原動機付自転車との接触事故が発生しており,現場の状況等からすると同種事故が発生しかねないこと,(ウ)Aが本件市道の路線の廃止及び売渡しを希望しており,いずれ路線の廃止が見込まれることから,本件フェンスの設置は道路法第43条第2号に違反しないと判断し,Aに対してその撤去を求めるなどの道路法に基づく監督処分の措置を執らなかった。
また,Y市長は,職員に命じて,本件フェンスにより本件市道が閉鎖された状況の下において本件市道の調査を行わせ,上記職員から,①本件市道の幅員は約1メートルしかなく,普通乗用自動車が通行できないこと,②本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しいと思われること,③本件市道の近くには認定道路であるB通りがあること等から,道路法第10条第1項に基づき本件市道の路線を全部廃止しても支障がないと考えられる旨の報告書の提出を受けた。なお,上記調査のうち聞き取り調査は,Aに対してのみ行われた。Y市長は,上記報告書を踏まえ,本件市道は一般交通の用に供する必要性がなくなったと判断し,Aに対し,本件市道に隣接する全ての土地(本件市道の西側に立ち並んでいる前記の数戸の住宅の敷地)の所有者から本件市道の路線の廃止に関する同意を得た上で売渡しに向けた手続を進めるよう回答した。
Aは,Y市長からの回答を受けて,上記隣接土地所有者と交渉を進め,そのほとんどの者から本件市道の路線の廃止に関する同意を得たが,本件畑の南側に隣接する土地(以下「本件土地」という。)を所有するX1だけは強く反対し,同意を得ることができなかった。
X1及びその子X2(以下,併せて「Xら」という。)は,本件土地上の住宅に居住し,X2は,C小学校への通学路として本件市道を利用してきた。C小学校まではB通りを通っても行くことができるが,周辺の道路状況から,本件市道を通る方が,C小学校までの距離は約400メートル短い。また,普通乗用自動車が通行できず交通量が少ない点で,B通りよりも本件市道の方がX2にとって安全であるとX1は考えている。さらに,C小学校は,災害時の避難場所として指定されており,Xらとしては,災害時にC小学校に行くための緊急避難路として,本件市道を利用する予定であった。
Y市のウェブサイトには,市道の路線を廃止するためには当該市道に隣接する全ての土地の所有者から同意を得る必要がある旨の記載がある。しかし,X1がY市に問い合わせたところ,隣接する全ての土地の所有者から同意を得ることは法律上の要件ではなく,X1の同意が得られなくても本件市道の路線の廃止は認められる旨の回答があった。
XらはY市に対して訴訟を提起しようと考え,知り合いの弁護士Dに相談した。
以下に示された【法律事務所の会議録】を読んだ上で,弁護士Dの指示に応じる弁護士Eの立場に立って,設問に答えなさい。
なお,道路法の抜粋を【資料1 関係法令】に,関連判例の抜粋を【資料2 参考判例】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。

〔設問1〕

Xらは,現時点において,Y市を被告として,本件フェンスを撤去させるための抗告訴訟を提起したいと考えている。
⑴ 抗告訴訟として最も適切と考えられる訴えを具体的に一つ挙げ,その訴えが訴訟要件を満たすか否かについて検討しなさい。なお,仮の救済については検討する必要はない。
⑵ ⑴の訴えの本案において,Xらはどのような主張をすべきか。解答に当たっては,当該訴えが訴訟要件を満たすことを前提にしなさい。

〔設問2〕

仮に,Y市長が,道路法第10条第1項に基づき,本件市道の路線を廃止したとする。
⑴ 本件市道の路線の廃止は,取消訴訟の対象となる処分に当たるか。
⑵ 本件市道の路線の廃止の取消訴訟において,Xらはどのような違法事由の主張をすべきか。解答に当たっては,当該取消訴訟が訴訟要件を満たすことを前提にしなさい。


【法律事務所の会議録】

弁護士D:本日は,Xらの案件について議論したいと思います。Xらは,本件市道をX2のC小学校までの通学路として利用していること,また,災害時の緊急避難路として利用したいと考えていることから,本件フェンスによって本件市道を通行できなくなっている状態を解消するための行政訴訟の提起を検討しています。そこで,まず,本件市道の路線がまだ廃止されていない現時点の状態において,Y市を被告として,本件フェンスを撤去させるための抗告訴訟を提起することができないかを検討したいと思います。今回は抗告訴訟に絞って検討し,当事者訴訟や住民訴訟については検討しないことにしましょう。
弁護士E:通行妨害を排除するためには,本件フェンスの設置者であるAに対する民事訴訟の提起も考えられますね。この点については,村道を利用して生活及び農業を営んでいると主張する原告が,その村道上に建物を建築するなどして排他的に占有しているとされる被告に対し,通行妨害の排除を求めた事案についての最高裁判所の判例(【資料2 参考判例】参照)があるようです。
弁護士D:そうですね。本件でそのような民事訴訟をAに対して提起して勝訴できるかどうかは分かりませんが,当該民事訴訟の可能性が,Y市を被告とする抗告訴訟の訴訟要件の充足の有無に影響を及ぼすかという点は,落とさずに検討してください。また,訴訟要件の検討に当たっては,選択した訴訟類型を定める条文の規定に即して,全般的に検討をしてください。
弁護士E:分かりました。
弁護士D:Y市長は,本件フェンスの設置は道路法第43条第2号に違反していないと判断し,道路法に基づく監督処分の措置を執らないこととしています。我々としては,道路法の規定に即して,Y市長のこのような判断に誤りがないかどうかを検討し,仮に誤りがある場合には,さらに,本件フェンスに関する監督処分の措置を執らないことが違法といえるかどうかを検討しなければなりませんね。
弁護士E:分かりました。次に,Y市は道路法第10条第1項に基づき本件市道の路線を廃止してAに売り渡すことを検討していますから,路線が廃止された場合の対応についても検討しておかなければならないと思います。
弁護士D:なるほど。本件市道の路線の廃止前にそれを阻止するための訴訟を提起することも考えられますが,今回は,路線が廃止された場合を前提として,それに対して取消訴訟を適法に提起できるかに絞って検討しましょう。
弁護士E:本件市道の路線の廃止が取消訴訟の対象となる処分に当たるか否かが問題となりますね。
弁護士D:そうですね。この問題を検討するに当たっては,市町村道の路線の廃止が道路敷地の所有者及び通行者の法的地位にどのような影響を及ぼすかを検討して,それが処分に当たるか否かを明らかにする必要があります。市町村道は,路線の認定,そして道路の区域の決定という過程を経た上で供用が開始されます。また,Y市が検討している路線の廃止は,道路自体の消滅を意味するものであって,これにより,当該路線について定められていた道路の区域や,当該道路についてされていた供用行為も自動的に消滅することとなると理解されています。ですから,本件市道の路線の廃止に係る処分性の有無を検討するためには,道路の区域の決定及び供用の開始が,道路敷地の所有者及び通行者の法的地位に対してどのような影響を及ぼすかについても検討する必要がありそうです。
弁護士E:道路敷地の所有者とおっしゃいましたが,本件市道の敷地の所有権は,古くから,私人ではなくY市にあります。道路の区域の決定及び供用開始や路線の廃止がY市の法的地位に与える影響を検討する必要があるのでしょうか。
弁護士D:そうですね。そのような疑問も生じ得るでしょうが,道路法は,私人が所有する敷地が道路の区域とされる場合があり得ることを前提とした規定を置いていますので,処分性の検討に当たっては,そのような規定も踏まえ,道路の区域の決定及び供用開始や路線の廃止が道路敷地の所有者の法的地位に及ぼす影響を検討する必要があります。また,それに加えて,これらの行政上の行為が道路の通行者の法的地位にどのような影響を及ぼすかも検討しておくべきでしょう。なお,Xらの原告適格については,これまで検討をお願いした点とかなりの程度重なるように思われますので,本件市道の路線の廃止の取消訴訟との関係では,差し当たり検討しなくて結構ですし,その他の訴訟要件についても,今は検討しないで構いません。
弁護士E:分かりました。
弁護士D:次に,訴えの適法性が認められた場合,本件市道の路線の廃止の違法性についてどのような主張をすべきか検討してください。
弁護士E:そもそもX2が通学路に利用していて本件市道の機能が失われていない以上,路線の廃止は許されないのではないかと思うのですが。
弁護士D:道路法の規定に即してそのような解釈が可能かどうか検討してください。また,我々としては,Y市長が,本件市道の路線の廃止の適法性をどのような理由付けで主張してくるかを想定し,そのようなY市長の主張を前提としても本件市道の路線の廃止が違法といえるかについても,検討する必要があります。
弁護士E:分かりました。
弁護士D:本件市道を利用していた人は,Xらと本件保育園の関係者以外に誰かいますか。
弁護士E:現に本件市道上で,園児と原動機付自転車の接触事故が起こっていますし,それ以前にも時折原動機付自転車が通行して園児と接触しかけたことがあったようですから,利用されていたことは確かですが,どの程度の頻度で利用されていたのかはよく分かりません。Y市長は,本件フェンスにより本件市道が閉鎖された状況の下においてY市の職員がAに対してのみ行った聞き取り調査に専ら依拠した上で,「本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しい」としています。しかし,X1としては,Y市長が十分な調査をしていないのではないかとの不満を持っています。
弁護士D:ところで,Y市は,市道の路線を廃止するには当該市道に隣接する全ての土地の所有者の同意を必要とする旨の内部基準を設け,その旨をウェブサイトで公表しています。この内部基準の法的性質や,道路法の規定との関係を検討した上で,本件市道の路線の廃止の違法性とこの内部基準がどう関係するかについても検討しなければなりませんね。
弁護士E:分かりました。

【資料1 関係法令】

○ 道路法(昭和27年6月10日法律第180号)(抜粋)
(この法律の目的)
第1条 この法律は,道路網の整備を図るため,道路に関して,路線の指定及び認定,管理,構造,保全,費用の負担区分等に関する事項を定め,もつて交通の発達に寄与し,公共の福祉を増進することを目的とする。
(用語の定義)
第2条 この法律において「道路」とは,一般交通の用に供する道で次条各号に掲げるものをいい,トンネル,橋,渡船施設,道路用エレベーター等道路と一体となつてその効用を全うする施設又は工作物及び道路の附属物で当該道路に附属して設けられているものを含むものとする。
2~5 (略)
(道路の種類)
第3条 道路の種類は,左に掲げるものとする。
一 高速自動車国道
二 一般国道
三 都道府県道
四 市町村道
(私権の制限)
第4条道路を構成する敷地,支壁その他の物件については,私権を行使することができない。但し,所有権を移転し,又は抵当権を設定し,若しくは移転することを妨げない。
(市町村道の意義及びその路線の認定)
第8条 第3条第4号の市町村道とは,市町村の区域内に存する道路で,市町村長がその路線を認定したものをいう。
2~5 (略)
(路線の認定の公示)
第9条(前略)市町村長は,(中略)前条の規定により路線を認定した場合においては,その路線名,起点,終点,重要な経過地その他必要な事項を,国土交通省令で定めるところにより,公示しなければならない。
(路線の廃止又は変更)
第10条(前略)市町村長は,(中略)市町村道について,一般交通の用に供する必要がなくなつたと認める場合においては,当該路線の全部又は一部を廃止することができる。(以下略)
2 (略)
3 (前略)前条の規定は前2項の規定による市町村道の路線の廃止又は変更について(中略)準用する。
(市町村道の管理)
第16条 市町村道の管理は,その路線の存する市町村が行う。
2~5 (略)
(道路の区域の決定及び供用の開始等)
第18条(前略)第16条(中略)の規定によつて道路を管理する者((中略)以下「道路管理者」という。)は,路線が指定され,又は路線の認定若しくは変更が公示された場合においては,遅滞なく,道路の区域を決定して,国土交通省令で定めるところにより,これを公示し,かつ,これを表示した図面を(中略)道路管理者の事務所(中略)において一般の縦覧に供しなければならない。
(以下略)
2 道路管理者は,道路の供用を開始し,又は廃止しようとする場合においては,国土交通省令で定めるところにより,その旨を公示し,かつ,これを表示した図面を道路管理者の事務所において一般の縦覧に供しなければならない。(以下略)
(道路に関する禁止行為)
第43条 何人も道路に関し,左に掲げる行為をしてはならない。
一(略)
二 みだりに道路に土石,竹木等の物件をたい積し,その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること。
(道路管理者等の監督処分)
第71条 道路管理者は,次の各号のいずれかに該当する者に対して,この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定によつて与えた許可,承認若しくは認定を取り消し,その効力を停止し,若しくはその条件を変更し,又は行為若しくは工事の中止,道路(中略)に存する工作物その他の物件の改築,移転,除却若しくは当該工作物その他の物件により生ずべき損害を予防するために必要な施設をすること若しくは道路を原状に回復することを命ずることができる。
一 この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反している者
二,三(略)
2~7 (略)
(道路予定区域)
第91条 第18条第1項の規定により道路の区域が決定された後道路の供用が開始されるまでの間は,何人も,道路管理者(中略)が当該区域についての土地に関する権原を取得する前においても,道路管理者の許可を受けなければ,当該区域内において土地の形質を変更し,工作物を新築し,改築し,増築し,若しくは大修繕し,又は物件を付加増置してはならない。
2 道路の区域が決定された後道路の供用が開始されるまでの間においても,道路管理者が当該区域についての土地に関する権原を取得した後においては,当該区域又は当該区域内に設置された道路の附属物となるべきもの(以下「道路予定区域」という。)については,第4条,(中略)第43条,(中略)第71条(中略)の規定を準用する。
3 第1項の規定による制限により損失を受ける者がある場合においては,道路管理者は,その者に対して通常受けるべき損失を補償しなければならない。
4 (略)
第102条次の各号のいずれかに該当する者は,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
一,二(略)
三第43条(中略)の規定に違反した者
四(略)
第104条次の各号のいずれかに該当する者は,100万円以下の罰金に処する。
一~三(略)
四第71条第1項(中略)の規定による道路管理者の命令に違反した者
五(略)

【資料2 参考判例】

○ 最高裁判所昭和39年1月16日第一小法廷判決(民集18巻1号1頁)(抜粋)

「地方公共団体の開設している村道に対しては村民各自は他の村民がその道路に対して有する利益ないし自由を侵害しない程度において,自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権(民法710条参照)を有するものと解するを相当とする。勿論,この通行の自由権は公法関係から由来するものであるけれども,各自が日常生活上諸般の権利を行使するについて欠くことのできない要具であるから,これに対しては民法上の保護を与うべきは当然の筋合である。故に一村民がこの権利を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり,この妨害が継続するときは,これが排除を求める権利を有することは,また言を俟たないところである。」