2017年司法試験民事系第2問採点実感(全文)商法

2017年司法試験民事系第2問採点実感(全文)商法

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平成29年司法試験の採点実感(民事系科目第2問)

1出題の趣旨等

既に公表されている平成29年司法試験の論文式試験出題の趣旨に,特に補足すべき点はない。

2 採点方針及び採点実感

民事系科目第2問は,商法分野からの出題である。これは,事実関係を読み,分析し,会社法上の論点を的確に抽出して各設問に答えるという過程を通じ,事例解析能力,論理的思考力,会社法に関する基本的な理解並びに法令の解釈及び適用の能力等を確認するものであり,従来と同様である。
その際に,論点について,過不足なく記述がある答案や,記述に多少の不足があっても,総じて記述が論理的である答案,制度の趣旨等に照らして条文を解釈している答案,事案に即して具体的な検討がされている答案には,一定の高い評価を与えた。これらも,従来と同様である。
なお,昨年も言及したが,読みにくい文字の答案であっても可能な限り正確に文章を理解するように努めているものの,それにもかかわらず,読みにくい文字のために文章を理解することができないような答案が,少数であるとはいえ,見られる。そのような文章については,その趣旨が不明であるものと判断した上で,採点せざるを得ない。

⑵ 設問1⑴について

ア 全体的な採点実感

設問1⑴は,発起人が取引の相手方に対し設立費用について未払額を残した状態で会社が成立した場合において,設立費用の総額が定款に記載した金額を超えていたときにおける,相手方であるD及びEに対する債務の帰属に関して,問うものである。
まず,本問においては,判例の立場及びその当否を検討することが求められているため,判例が,設立費用を未払の状態で会社が成立した場合に,定款に記載した金額(会社法第28条第4号)の範囲で,債務は成立後の会社に帰属し,その範囲では,取引の相手方は,成立後の会社に対し,弁済等を請求することができ,発起人に対しては,弁済等を請求することができないという立場を採っていること(大判昭和2年7月4日民集6巻428頁,大判昭和8年3月27日法学2巻1356頁)を指摘する必要があるところ,判例を正確に指摘することがで
きていない答案が相当数あった。判例の当否については,多くの学説において,発起人が複数の相手方と取引をしてその債務の総額が定款に記載した金額を超える場合に,どの債務についてどの範囲で会社に請求することができるかという困難な問題を生ずることなどから,批判的な立場が採られているところ,答案においても同様の理由を示して判例に反対する立場を採るものが多かった。他方で,成立後の会社の財産的基礎を確保するという会社法第28条第4号の趣旨を重視し,判例に賛成する立場を採る答案も少なくなかった。
債務の帰属については,判例に賛成する見解によると,設立費用の総額が定款に記載した金額を超えていた場合においては,債務は,①契約を締結した順序により,契約を締結した順序が明らかでないときは,債務の額に応じた按分の方法により,定款に記載した金額の範囲で,成立後の会社に帰属するというものや,②契約を締結した順序にかかわらず,債務の額に応じた按分の方法により,定款に記載した金額の範囲で,成立後の会社に帰属するというものなどが考えられる。他方で,判例に反対する見解によれば,債務は,①定款に記載した金額の範囲
であっても,成立後の会社に帰属せず,取引の相手方は,発起人に対し,弁済等を請求することができるにとどまるというものや,②定款に記載した金額にかかわらず,全て成立後の会社に帰属し,取引の相手方は,成立後の会社に対し,弁済等を請求することができるというもの,③取引の相手方は,会社及び発起人のいずれに対しても,弁済等を請求することができるというものなどが考えられる。なお,判例に賛成する立場を採る答案には,定款に記載した金額の範囲で,成立後の会社に対し,弁済等を請求することができると論ずるにとどまり,複数の取引債務の総額が定款の記載額を超える場合に,どの債務についてどの範囲で会社に請求することができるかについて言及していないものが相当数あった。判例に賛成又は反対のいずれの立場を採る場合であっても,これらの見解といわゆる設立中の会社の概念や発起人の権限の範囲との関係を意識して論ずることが望まれる。

イ 答案の例

(ア)優秀又は良好に該当する答案の例

判例の立場及びその当否について,会社法第28条第4号の趣旨と取引の相手方の保護の必要性ないし取引の安全との調和の観点から丁寧に論じ,その論述と整合的に,支払を拒否することができるかどうかについて自らの見解を論じた上で,事案に即して結論を導いているものには,高い評価を与えた。

(イ)不良に該当する答案の例

本問においては,明示的に,判例の立場及びその当否を検討することが求められているにもかかわらず,これらについて言及していないものが相当数あったほか,以下のとおり,設立費用や設立中の会社の法律関係に関する基本的な理解を欠いているものが一定数見られた。
本問において定款に設立費用についての記載がないとするもの,設立費用が登記事項であるとするもの,設立費用について会社法第27条第4号又は第28条第1号若しくは第2号を引用するものなど,設立費用の意義等を明らかに誤解しているもの①設立を直接の目的とする行為,②設立のために必要な行為,③財産引受け,④開業準備行為といった行為の類型や,意義,具体例を誤解し,例えば,本問を定款に記載がない開業準備行為に関する問題として論ずるものや,設立事務を行う事務所用建物の賃借と設立事務を補助する事務員の雇用とで,該当する行為の類型を異にするものとして論ずるもの

⑶ 設問1⑵について

ア 全体的な採点実感

設問1⑵は,定款に記載がない財産引受けの効力及び当該財産引受けの追認の許否等について,問うものである。
まず,本問においては,相談を受けた弁護士の立場に立って,検討することが求められているため,判例が,定款に記載がない財産引受けは,無効であり,譲渡人も無効を主張することができ,成立後の会社が追認しても,有効とならないとしていること(最判昭和28年12月3日民集7巻12号1299頁,最判昭和42年9月26日民集21巻7号1870頁,最判昭和61年9月11日裁判集民148号445頁)を意識しながら,本件購入契約に関する会社法上の問題点として,定款に記載がない財産引受けの効力及び当該財産引受けの追認の許否
について,説得的に論ずることが求められる。しかし,判例の考え方に言及せず,又は定款に記載がない財産引受けが当然に発起人の無権代理行為であると論ずるものなど,判例を意識していないと思われる答案が多かった。
甲社が本件機械の引渡しを受けるために採ることができる方法及びこれに必要となる会社法上の手続について,判例に賛成する見解からは,甲社がFから本件機械を購入する契約を改めて締結しなければならないが(この場合には,Fの増額要求をある程度受け入れるのもやむを得ないであろう。),本問においては,本件機械の価額及び甲社の純資産額等に照らし,本件機械の取得が事後設立に当たる。そのため,事後設立の手続について,株主総会の特別決議によって,当該契約の承認を受けなければならないこと(会社法第467条第1項第5号,第30
9条第2項第11号)など,事案に即して検討することが望まれる。しかし,本件機械を購入 する契約を改めて締結することと,本件機械の取得が事後設立に当たることとの関係を正確に理解しておらず,本件機械を購入する契約を改めて締結することに言及しないで,単に,事後設立に関する手続を採れば,本件機械を取得することができるというような論述をする答案が相当数あった。また,「純資産額の5分の1を超えることから,事後設立に当たらない。」などと論述し,同法第467条第1項第5号ただし書の意味を誤解している答案も散見された。なお,株主総会の特別決議の要否に言及せず,取締役会の決議(同法第362条第4項第1号)の要否に言及するのみの論述には,高い評価を与えていない。
判例に反対し,定款に記載がない財産引受けの追認を認める見解からは,本件購入契約を追認することが考えられる。そのために,本件機械の価額及び甲社の純資産額等に照らし,事後設立に関する手続により株主総会の特別決議による承認を受けなければならないと考えられること(会社法第467条第1項第5号類推,第309条第2項第11号類推)などに言及しながら,事案に即して検討することが望まれる。しかし,本件購入契約を追認するための手続について何ら言及していない答案や,上記と同様に株主総会の特別決議による承認の要否に関す
る同法第467条第1項第5号ただし書の意味を誤解している答案も散見された。
なお,相手方の無効主張を不可とする立場等からの論述にも,一定の評価を与えている。

イ 答案の例

(ア)優秀又は良好に該当する答案の例

特に,定款に記載がない財産引受けの追認の許否について,判例の立場にも配慮した上で,財産引受けの規制の趣旨を踏まえつつ,会社や,株主及び債権者等の会社の利害関係人,取引の相手方の利益も勘案し,自らの見解を説得的に論じ,その論述と整合的に,追認又は再契約の方法を指摘するとともに,そのために必要となる会社法上の手続として,事後設立に関する手続(同法第467条第1項第5号,第309条第2項第11号)について,丁寧に検討するものには,高い評価を与えた。

(イ)不良に該当する答案の例

以下のとおり,定款に記載がない財産引受けに関する基本的な理解が不十分であると判断せざるを得ないものが相当数見られた。
①定款に記載がない財産引受けの効力が無効であることについて,会社法第28条柱書き及び第2号という条文上の根拠に何ら言及せず,単に発起人の権限が開業準備行為に及ばないということからのみ論ずるもの,②定款に記載がない財産引受けの追認の許否について言及していないもの,③本件機械を購入する契約を改めて締結することに言及しないで,単に事後設立に関する手続を採れば,本件機械を取得することができるとするもの,④事後設立に関する手続として株主総会の特別決議(同法第467条第1項第5号,第309条第2項第11号)の要否に言及せず,重要な財産の譲受けとして取締役会の決議(同法第362条第4項第1号)の要否のみに言及するものそのほか,事実関係を全く踏まえず,①会社の成立後であるにもかかわらず,定款の変更をした上で,財産引受けを行うとするもの,②現物出資により給付を受けるとするものも一定数見られた。

⑷設問2について

ア 全体的な採点実感

設問2は,買収者が対象会社の少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合に係る株主総会の決議の取消事由及び無効事由について,問うものである。本問においては,まず,乙社の創業者の一族である株主Gが,平成28年7月11日を効力発生日とする株式の併合により株主の地位を失っていることから,Gの原告適格について,会社法第831条第1項柱書き後段を指摘する必要があるが,これについて何ら言及していない答案が極めて多かった。 本件決議の取消事由については,第1に,本件持株会の会員であるKが,株主名簿に記載されている株主でないにもかかわらず,代理人として議決権を行使したことが,株主総会の決議の方法の定款違反(会社法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて,事案に即して検討することが求められる。株主は,代理人によってその議決権を行使することができる(同法第310条第1項)が,乙社の定款第16条は,議決権を行使する株主の代理人資格を当該会社の株主に制限している。判例は,そのような定款の規定は,株主総会が,株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し,会社の利益を保護する趣旨に出たものと認められ,合理的な理由による相当程度の制限ということができるから,有効であるとしていること(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)から,そのような趣旨も踏まえて,Kの議決権の代理行使が定款に違反するか否かを検討することが求められる。例えば,Kは,株主名簿上の株主ではないが,実質的に乙社の株主であることをどのように評価するかが検討対象となろう。しかし,このような問題の所在等を正確に理解せず,的確に指摘することができてい
ない答案が相当数あった。なお,以上とは別に,甲社の代表取締役Cが甲社を代表して議決権を行使していることについて,代理人による議決権の行使であると誤解し,Cによる議決権の代理行使が株主総会の決議の方法の定款違反に当たるか否かを論ずる答案が相当数あった。
第2に,乙社の代表取締役Jは本件株主総会において株式の併合をすることを必要とする理由を説明している(会社法第180条第4項)が,Jの説明の内容に照らし,その説明が株主総会の決議の方法の法令違反(同法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて,事案に即して論ずることが求められる。具体的には,問題文13の①及び②の説明のうち,②の説明が虚偽ということができるかどうか(減資のため株式数を減少させる法的な必要性はない。)や,本来の目的を説明しなかったことの適否を検討することが必要となる。しかし,そもそも
同法第180条第4項違反に当たるか否かについてではなく,同法第314条違反に当たるか否かについてのみ論ずる答案が多かった。なお,同法第180条第4項に規定する株式の併合をすることを必要とする理由の説明の意義について,学説における解釈に沿って的確に論ずる答案はほとんどなかった。
第3に,Iの相続人である株主Lに議決権を行使させなかったことが,株主総会の決議の方法の法令違反(会社法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて,論ずることが求められる。これについては,株主総会の決議の取消しの訴えを提起する者は他の株主に関する瑕疵を取消事由として主張することができること(最判昭和42年9月28日民集21巻7号1970頁)を前提とした上で,株式の譲渡の対抗要件に関する同法第130条第1項が株式の相続にも適用されるか否かに言及しながら,事案に即して検討することが期待される。しかし,同項が株式の相続にも適用されるか否かという問題の所在を正確に理解し,的確に指摘することができている答案は極めて少なく,これを的確に指摘した上で論ずる答案には,一定の高い評価を与えた。
第4に,買収者である甲社の代表取締役Cが甲社を代表して議決権を行使しているところ,本件決議が,株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによる著しく不当な決議(会社法第831条第1項第3号)に当たるか否かについて,事案に即して検討することが求められる。しかし,特別の利害関係の意義について言及していない答案が散見された。また,特別の利害関係を有する者に当たるか否かと,著しく不当な決議に当たるか否かとの関係について,正確に理解していないと思われる答案や,著しく不当な決議の意義
を誤解している答案が相当数あった。
以上4点の取消事由に関する論点について,ほぼ全てに言及し,かつ,その記述が正確で論理的である答案は,少なかった。
そのほか,買収者である甲社が対象会社である乙社の少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合が,株主平等原則(会社法第109条第1項)に違反するの ではないかという観点から,本件決議の無効事由となる余地があることを検討することも求められるが,これについて論ずる答案は,ほとんどなかった。

イ 答案の例

(ア)優秀又は良好に該当する答案の例

株式の併合により株主の地位を失ったGの原告適格について,的確に指摘した上で(会社法第831条第1項柱書き後段),本件決議の取消事由として前記の4点の全てに言及し,それぞれについて事案に即した簡潔かつおおむね適切な論証をしているものには,高い評価を与えた。もっとも,取消事由のうち,Lに議決権を行使させなかったことの適否については,同法第130条第1項が株式の相続にも適用されるか否かという問題の所在等を的確に指摘することができている答案は極めて少なく,良好に該当するような答案であっても,株主名簿や基準日の制度の趣旨を会社の事務処理上の便宜であるとしつつ,株式の取得が相続によるものであり,また,本件株主総会に係る議決権行使の基準日の後であるものの,株主名簿の名義書換えが行われており,Lが株主であることは会社にも明らかであったとして,本件においては,会社の事務処理上の便宜よりも,株主による議決権の行使を優先すべきであるというように論ずるものが多かった。甲社の代表取締役Cが議決権を行使したことが,同法第831条第1項第3号に当たるか否かについても,良好に該当するような答案であっても,特別の利害関係を有する者に当たるか否かと,著しく不当な決議に当たるか否かとの関係について,的確に論ずることができている答案は少なかった。

(イ)不良に該当する答案の例

株主総会の決議の取消事由,無効事由及び不存在事由を正しく理解せず,又は誤解しており,適切に区別することができていないもの取消事由に当たるなどと論ずるものの,具体的に会社法第831条第1項第1号から第3号までの取消事由のいずれに当たるかについて言及していないもの

乙社は書面による議決権行使に関する事項を定めなければならないわけではない(会社法第298条第2項本文参照)にもかかわらず,定時株主総会の招集通知に,株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとする旨が記載されていなかったことをもって株主総会の招集の手続が法令に違反するとするもの

Kによる議決権の代理行使が,本件持株会の規約の定めに違反するか否かや,会社法第106条の規定に違反するか否かについてのみ論ずるもの

代理人の資格を当該会社の株主に制限する定款の規定が有効であると解されていることに全く言及がなく,このような趣旨を踏まえた検討も全くされていないもの

Jによる株式の併合の理由の説明が株主総会の決議の方法の法令違反に当たるか否かとして,会社法第180条第4項違反に当たるか否かについてではなく,同法第314条違反に当たるか否かについてのみ論ずるもの

会社法第124条第4項の適用範囲を誤解し,Lに議決権を行使させなかったことが同項に違反すると論じていると解さざるを得ないもの

乙社がLの請求に応じて株主名簿の名義書換えを行ったのが本件株主総会に係る議決権行使の基準日の後であったことを適切に考慮しないで,乙社がLに議決権を行使させなかったことが信義則に違反するというように論ずるもの

株主総会の決議について特別の利害関係を有する者に当たる甲社の代表取締役Cが議決権を行使したことによってされた本件決議は,そのことのみにより,その内容にかかわらず,直ちに著しく不当な決議に当たるかのように論ずるもの

いわゆる裁量棄却(会社法第831条第2項)の要件を正確に理解しておらず,本件決議が,株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによる著しく不当な決議(同条第1項第3号)に当たるとした上で,そのこととの関係で,いわゆる裁 量棄却の可否について論ずるもの

⑸設問3について

ア 全体的な採点実感

株式の併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手続や反対株主の株式買取請求について,問うものである。
設問3においては,平成28年7月11日を効力発生日とする株式の併合により乙社の株式を失うこととなる株主Lの経済的利益が会社法上どのように保護されるかについて,説明及び検討することが求められる。
まず,株式の併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手続(会社法第235条,第234条第2項から第5項まで)について説明する必要がある。しかし,この手続に言及する答案は,極めて少なかった。
次に,反対株主の株式買取請求(会社法第182条の4)についても説明することが求められる。株主Lは,本件株主総会に先立って株式の併合に反対する旨を乙社に対し通知したが,本件株主総会の会場への入場を認められなかったため,本件株主総会において株式の併合に反対していない(同条第2項第1号参照)。そのため,このような株主Lが同号又は同項第2号の「反対株主」に該当するか否かが問題となることから,この要件について,株主Lが株主総会において議決権を行使することができた株主であると解するか否かについての設問2におけ
る検討と整合的に論ずることが求められる。
設問2において,株主Lが株主総会においてその議決権を行使することができた株主であると解した場合には,前述のとおり,形式的には,Lは会社法第182条の4第2項第1号に規定する株主の要件を満たしていないものの,その原因が,Lが本件株主総会の会場への入場を求めたにもかかわらず,これを乙社の受付担当者が代表取締役Jの指示に基づき不当に拒否したことにあるから,乙社は同号の規定によるLからの株式買取請求を信義則上拒否することができないと解し,又はこのような事情から,Lは同項第2号に規定する株主に当たり,Lは乙
社に対し株式買取請求をすることができると解することが考えられよう。このような解釈を採る答案は比較的多かった。そのような答案には,その論述の内容もおおむね論理的なものが相当数あり,高い評価を与えた。
他方で,設問2において,株主Lが株主総会においてその議決権を行使することができなかった株主であると解した場合には,会社法第182条の4第2項第2号に規定する株主に,株主総会の基準日以前に議決権を有する株式を取得しながら名義書換えを怠った者(株主総会の基準日後に株主名簿の名義書換えをした株主)が含まれるか否かを検討することが期待される(なお,この点に関する裁判例として,例えば,東京地決平成21年10月19日金判1329号30頁,東京地決平成25年9月17日金判1427号54頁参照)。もっとも,この点
について検討している答案はほとんどなく,単に同号の「議決権を行使することができない株主」に当たるとのみ指摘し,結論においては,Lが乙社に対し株式買取請求をすることができるとの立場を採る答案が多かったが,このような答案には,高い評価は与えていない。なお,例えば,設問2においては,結論として,Lは株主総会において議決権を行使することができた株主であると解しているにもかかわらず,設問3においては,何ら説明をすることなく,Lが会社法第182条の4第2項第2号に規定する当該株主総会において議決権を行使することができない株主に当たるとのみ論ずるなど,設問2における検討と設問3における論述とが何ら理由もなく矛盾する答案が散見され,そのような答案には,低い評価を与えるにとどめた。

イ 答案の例

(ア)優秀又は良好に該当する答案の例

株式の併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手続(会社法第235条,第234条第2項から第5項まで)と反対株主の株式買取請求(同法第182条の4)との二つの制度により経済的利益が保護されることを的確に指摘しているものは,総じて高い評価であった。
また,このうち,反対株主の株式買取請求に関しては,Lが「反対株主」(会社法第182条の4第2項)の要件を満たすか否かについて,設問2の検討と整合的に論証し,かつ,その論述内容も事案に即した説得的なもの,例えば,前記アで記載したような論述のほかにも,Lが議決権を行使することができなかった株主であるとの立場であっても,株主名簿の名義書換えを怠った株主を保護する必要はないなどとし,同項第2号に規定する株主の要件を満たしていないと解して買取請求権の行使を否定するものなどには,高い評価を与えた。

(イ)不良に該当する答案の例

会社法第182条の4第2項第1号の要件を理解しておらず,単に,株式の併合に反対する旨を乙社に対し通知したことのみをもって,当然に,反対株主に当たるかのように論ずるもの
Lが株主総会において議決権を行使することができたか否かについての設問2における検討と,設問3における反対株主の株式買取請求に関する論述とが何らの理由もなく矛盾するもの

そのほか,問題文6に,乙社は,種類株式発行会社ではなく,その定款には,単元株式数に関する定めはないと明示していたにもかかわらず,単元未満株式の買取請求(会社法第192条)について説明するものや,同法116条第1項第3号イに規定する反対株主の株式買取請求のみに言及するものが散見された。なお,同法第785条に規定する反対株主の買取請求に言及するものが少数ながら見られた。

3法科大学院教育に求められるもの

設立に関して,設立費用に関する会社法第28条第4号の趣旨,設立中の会社の発起人の権限の範囲並びに定款に記載がない財産引受けの効力及びその追認の許否等といった基本的な論点について,代表的な判例の理解のみならず,条文の趣旨又は意義を含めた基本的な理解が不十分であった。
株主総会の決議の取消しの訴えに関しても,その原告適格について条文の指摘を欠いていたり,取消事由のうち,議決権行使の代理人資格を株主に制限する定款の定めの有効性やその例外といった基本的な論点について的確に論証せず,特別の利害関係を有する株主による議決権行使や同法180条第4項の説明義務といった基本的な条文又は制度の理解等も不十分であったりするなど,総じて会社法の基本的な理解について不十分な面が見られる。
条文の引用が不正確又は不十分である場合が目に付き,代表的な判例についても引用又は言及が少なく,条文の適用又は解釈を行っているという意識や代表的な判例の存在を前提にして論ずるという意識が高いとは言い難い。論点についての論述において,条文の適用関係を明らかにしないまま,又は判例を意識しないままに,自説を論述する例が見られる。これらについては,基本的に昨年までと同様の印象である。
問題文における事実関係から会社法上の論点を的確に抽出する点等においても,不十分さが見られた。
従来と同様に,会社法に関する代表的な判例の理解を含めた基本的な理解を確実なものとするとともに,事実関係から重要な事実等を適切に拾い上げ,これを評価し,条文を解釈及び適用する能力と論理的思考力を養う教育が求められる。

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