行政法学《環境法》レジュメ~行政訴訟

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行政訴訟

参照:大塚BASICp409~425

行政事件訴訟法の定める訴訟類型としては、取消訴訟、不作為の違法確認訴訟、無効等確認訴訟、義務付け訴訟、差止訴訟、当事者訴訟など様々なものがあるが、まず行政訴訟の中で中心的な地位を占める取消訴訟をとりあげる

取消訴訟

「『抗告訴訟』とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう(行政事件訴訟法3条1項)
取消訴訟には、処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えがある(行政事件訴訟法3条2項、3項)

行政行為の公定力により、原則として行政行為の効力は取消訴訟でしか否定されない(取消訴訟の排他的管轄)

取消訴訟が審理には、訴訟の利用条件である訴訟要件の審理と、そして請求に理由があるかどうかの本案審理の区分がなされる

訴訟要件

訴訟要件を満たしていない訴えは却下される
→ 却下判決だと、本案についての裁判所の判断がなされない
訴訟要件の一つとして、処分又は裁決があつたことを知つた日から6ヶ月、処分の日より1年という出訴期間がある(行政事件訴訟法14条)

(1)処分性

処分の取消しの訴えは、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の取消しを求める訴えである(行政事件訴訟法3条2項)

「処分その他公権力の行使に当たる行為」とは主として行政法学でいうところの行政行為のことを指す

行政行為以外の行為形式は基本的には取消訴訟で争うことができない

処分性の問題

そこで、訴訟要件の問題の一つとして、取消訴訟で争うことができる処分に該当するか否かという問題が生じる。

最高裁昭和39年10月29日第1小法廷判決(民集18巻8号1809頁)
Y(東京都)はゴミ焼却場を設置しようとしたところ、設置予定場所の近隣住民Xが一連のゴミ焼却場設置行為の無効確認を求める訴訟を提起した。
「行政庁の処分とは、…公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものである」「Yにおいて本件ごみ焼却場の設置を計画し、その計画案を都議会に提出した行為はY自身の内部的手続行為に止まる…。右設置行為は… 『行政庁の処分』にあたらない」

上の判例で示されているように行政機関の内部行為には処分性が認められない。また紛争の成熟性が必要とされ、行政計画段階では処分性が否定される場合がある

ex. 環境基準改訂の告示には処分性が認められないとした裁判例がある(東京高裁昭和62年12月24日判決、行集38巻12号1807頁)

(2)原告適格

処分の名宛人以外の第三者に、取消訴訟の提起が認められるか。これが原告適格の問題である。
行政事件訴訟法は9条で、取消訴訟は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができるとする。そこで原告適格が認められるかどうかは、原告がこの法律上の利益を有す者にあたるか否かにかかっている。

→ 判例は、「法律上の利益を有する者」の解釈について、原告適格の範囲につき、当該被侵害利益を処分の根拠法規が保護しているかどうかで判断しようとする法律上保護された利益説に立ったったうえで、原告適格の範囲を拡大してきた。

新潟空港訴訟 最高裁平成元年2月17日第2小法廷判決(民集43巻2号56頁)Y(運輸大臣)が日本航空に新潟-ソウル間の定期航空運送事業免許を与えたところ、X(空港近隣住民)がその取消しを求めて訴えを提起した。
「当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によつて形成される法体系の中において,当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによつて決すべきである。」航空法は、「単に飛行場周辺の環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によつて著しい障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含むものと解することができるのである。したがつて、…当該免許に係る路線を航行する航空機の騒音によつて社会通念上著しい障害を受けることとなる者は、当該免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する」

もんじゅ訴訟(最高裁平成4年9月22日第3小法廷判決、民集46巻6号571頁)では、原子炉周辺住民の原告適格が認められた

2004年の行政事件訴訟法の改正で9条2項が追加された。原告適格を拡大する判例を立法化したものだとされる

小田急線訴訟(最高裁平成17年12月7日大法廷判決、判例時報1920号13頁)は、都市計画事業として行われる鉄道事業予定地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に原告適格が認められた

行政法~判例~小田急訴訟と環状6号線訴訟
小田急訴訟と環状6号線訴訟 環状6号線訴訟 最一小判平11.11.25判タ1018号177頁 事案の概要 東京都が環状六号線整備計画に基づき都市計...

※最高裁は一般消費者・住民団体等に原告適格を認めることに消極的である

学術研究者が、遺跡の指定解除処分を争ったところ、文化財保護法・静岡県文化財保護条例の規定中に学術研究者の学問研究上の利益について、「一般の県民あるいは国民が文化財の保護・活用から受ける利益を超えてその保護を図ろうとする趣旨を認めることは出来ない」として、原告適格は認められなかった(最高裁平成元年6月20日第3小法廷判決、判例時報1334号201頁)

(3)狭義の訴えの利益

本案判決による紛争の解決可能性のことを(狭義の)訴えの利益という
→ 行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する」とは狭義の訴えの利益を有していることも含む

本案審理

訴訟要件が認められる場合は、原告の請求を認める場合は請求認容判決がなされ処分は取り消される、原告の請求を認めない場合は請求棄却判決がなされる

行政裁量が認められない場合、裁判所により処分の法律適合性が審査される
→ 判断代置による司法審査

行政裁量が認められる場合、裁判所は行政庁の裁量権の行使に濫用・踰越がないかを審査する(行政事件訴訟法30条)

小田急線訴訟 平成18年11月2日第1小法廷判決(民集60巻9号3249頁)小田急の複々線化計画について鉄道事業と附属街路事業が、都市計画法の都市計画事業としてY(建設大臣)に認可された。周辺住民Xらがこの認可を争った。
「前記事実関係の下においては,平成5年決定が本件高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとはいえないと解される。」東京都平成5年決定は、環境影響「評価書の内容にも十分配慮し,環境の保全について適切な配慮をしたものであり,公害防止計画にも適合するものであって,都市計画法等の要請に反するものではなく,鉄道騒音に対して十分な考慮を欠くものであったということもできない」

裁判所は、近時、行政裁量の審査について「考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮」といった行政機関の判断過程を審査する審査方式を用いている。上の小田急線判決もその傾向を示している

土地収用に際して「文化的諸価値ないしは環境の保全という本来最も重視すべきことがらを不当、安易に軽視し、その結果右保全の要請と自動車道路の整備拡充の必要性とをいかにして調和させるべきかの手段、方法の探究において、当然尽すべき考慮を尽さず…、オリンピツクの開催に伴なう自動車交通量増加の予想という、本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れ...、かつ、暴風による倒木(これによる交通障害)の可能性および樹勢の衰えの可能性という、本来過大に評価すべきでないことがらを過重に評価した…点で、その裁量判断の方法ないし過程に過誤があ」るとした、日光太郎杉事件判決(東京高裁昭和48年7月13日判決、判例時報710号23頁)が判断過程審査の先駆的なものだとされる

執行停止

「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。」(行政事件訴訟法25条1項)→ 取消訴訟を提起しただけでは、行政手続の進行は止まらない

「処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。」(行政事件訴訟法25条2項)

執行停止が認められるためには「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」ことが必要である

行訴法平成16年改正前の事案であるが、圏央道あきる野IC代執行手続執行停止事件第1審決定(東京地裁平成15年10月3日決定、判例時報1835号34頁)では、土地の強制収用の代執行について「居住の利益を奪われるところ、その利益は上記のとおり極めて重要なものであり、かつ、いったん奪われると回復することはほとんど不可能なものである」として、「回復困難な損害」の発生を避けるため、代執行の手続を停止する緊急の必要性があるとされた。しかし、高裁決定(東京高裁平成15年12月25日、判例時報1842号19頁)では、居住の利益は金銭賠償により十分に填補することができるとして、回復困難なものであるとは認められなかった

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